ビデオ考古学者のつぶやき
5月7日(木)
文化放送「大竹まことのゴールデンラジオ」のメインパーソナリティーである大竹まことが、4月27日(月)から5月6日(水)まで、ゴールデンウィーク休暇と称して、ラジオ番組を休んでいた。
ところが5月4日(月)に、いても立ってもいられなくなり、自分の番組に乱入した。自分の番組に乱入する、というのも変な話だが、代役を立てていただけに、予定にはなかったことである。
「もう喋りたくて喋りたくて、しょうがなくて来たんだよ。でも、休み中は家にいるばっかりだから、喋る内容がないんだ」
と言っていた。これもまたおかしな話だが、この感覚、すごくよくわかる。
僕も、このブログでどーでもいい文章を書きたくて仕方ないのだが、ずっと家にいるので、書くべき内容がない。
録りだめた映画の感想とか、読んだ本の感想とか、政府の新型コロナウィルス対策に対する怒りとか、そういったものくらいしか思い浮かばない。
それだったら、仕事の原稿を書けよ!というハナシなのだが、気分的になかなか仕事の原稿を書く気力がわいてこない。
なので、読者を減らすために、誰もわからないような話を書く。
このブログでも以前に名前の出た、コンバットRECさん。このブログでは有名人ですけども。
…あれ、ご存じない?ビデオ考古学者のコンバットRECさんですよ!
もちろん僕はまったく面識がなく、どんな顔をしている人かすらもわからない。ライムスター宇多丸さんのラジオ番組にちょいちょい出演する、謎の人物である。
ラジオ番組で喋っている様子から、相当なダメ人間であることや、僕とほぼ同年齢と考えられることや、子どもの頃から無類のテレビ好きであることなどがわかる。なにしろ「ビデオ考古学者」という訳のわからない肩書きなのだ。
一番最初に買った歌謡曲のアルバムは、沢田研二の『思いきり気障な人生』であるとラジオで語ったときは、僕もまた同じく、最初に買った歌謡曲のアルバムがソレだったので、なんという共通点だ!と、親近感を覚えずにはいられなかったのである。
連休中、体調もアレなので、家でぐったりしながらネットサーフィンしていたら、たまたまコンバットRECさんのツイッターに突き当たった。
コンバットRECさんもツイッターをやってるのか、とその時初めて知り、少し読んでいくと、今年の4月12日に、
「大林監督とは一度サシでお話する機会に恵まれ、映画づくりのお話をたくさん伺いました。4時間でビールを10本以上飲んだでしょうか。緊張と興奮で酔ってるのか酔ってないのかよくわからない状態でしたが、それはもう夢のような時間でした。生涯の宝物です。」
「何かを好きになる入口には「なんかよくわかんないけどすげー!」があって、その先に意味がわかったり理解を深めたりがあったりすると思うんですけども、大林映画は40年経っても「なんかよくわかんないけどすげー!」のままなんですよね。個人的には。」
「ご本人にその旨伝えたら、いたずらっぽい笑顔でニコッと笑って「だから映画を撮るんじゃないか。嬉しいねえ」と。」
と、大林宣彦監督に対する追悼のツイートをしていた。
このコンバットRECさんの体験が、僕自身の体験と重なるようで、とても興味深かった。僕は、大林監督へのインタビューのとき、お酒こそ飲まなかったが、「4時間」「緊張と興奮」「夢のような時間」「生涯の宝物」「大林映画は40年経っても「なんかよくわかんないけどすげー!」のまま」といったコンバットRECさんの言葉とまったく同じ思いをしたのである。
おそらく、大林監督のお話を聞いてそんな体験に浸った人が、ごまんといるんだろうな。その一人がコンバットRECさんであり、僕なのである。
映画評論家の町山智浩さんは、大林監督を追悼するコメントの中で、「亡くなった気がしない」と述べていた。僕もそうである。なぜなら、大林映画を通じて、死者と生者があたりまえのように共存することをずっと見続けてきたからである。死んだ者を忘れなければ、死者は生者の心の中で永遠に生き続ける、というピクサー映画『リメンバー・ミー』にも共通する死生観を、僕は大林映画から学んできたのだ。
3年前に父が死んだときも、僕はそれほど悲しくはなかった。なぜなら僕の中に父が生き続けているから。僕の顔つきや、声や、喋り方や、咳の仕方、そして娘のあやし方のなかに、父はいまでも生き続けているのだ。
「死んだ人たちはどこにいる?
旅に出かけておりまする」
(『EMOTION=伝説の午後 いつか見たドラキュラ』より)
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コメント
なぜだか、若くして亡くなった伊藤俊人さんを思い出しました。
正確に言うと伊藤さんの葬儀の際の三谷幸喜の弔辞を思い出したのですが。
「人にはニ度死が訪れると言います。 一度はこうした別れ、そして二度目は誰も氏を思い出さなくなった時訪れると言います。でも私は決して彼を忘れることはないでしょう。ですから、彼は二度目の死が訪れることはないのです。」
投稿: 江戸川 | 2020年5月 8日 (金) 21時42分
ちょうどいま、YouTubeで、東京サンシャインボーイズによる「12人の優しい日本人」のZoom朗読劇が配信されていて、オリジナルのメンバーが集結しているんだけど、その朗読劇を見ながら、そこに本来いるはずだった、伊藤俊人さんのことを思い出してたところです。
投稿: onigawaragonzou | 2020年5月 9日 (土) 14時22分