人類ウィルス論
空気がきれいになった。
そう感じたのは、この時期になっても、マンションの上から富士山が見えることに気づいたからだ。ふつうこの時期になるとモヤがかかったりして、富士山をのぞむことができない。
夕方になると、風が心地よい。空気が澄んでいるのである。
BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るテレビ」を見ていたら、ロサンゼルス在住で女優の藤谷文子さんが、ロサンゼルスの空はふだん見られないような青空が広がり、空気が澄んでいるという。どうやら空気が澄んでいるのは世界的な傾向らしく、おそらく外出が規制されて人々の活動が減少しているからだろう。
地球とはまことに正直である。
人々が街に出るのをやめ、車に乗るのをやめ、仕事も休み、家にこもる。それを世界規模でおこなったら、もちろん人間にとっては困った事態だが、地球にとってみたら健康を取り戻した、ということになるのではないか。
大林宣彦監督の言葉を思い出す。
「僕はがんの宿主だから、いつもがんと話しているんです。
『おい、がん公よ、おまえは俺の血液や筋肉を食っていい思いをしているけど、おまえはバカだぞ。おまえがあまり贅沢をしていると、宿主の俺が死んじゃうぞ。そうしたら、おまえも死ぬんだぞ。そこまで考えろよ。おまえが考えてくれれば、おれもおまえを労って、いつまでも一緒に長生きしてやるからな』と。
でもそう考えると、待てよ、ぼく自身もがん細胞じゃないですか。ぼくもいいものを食いたくて、地球上の生物を食い荒らしまくっている。エアコンを使ったり、ジェット機を飛ばしたりして、地球の温暖化を引き起こしている。そうしたぼくたちの我がままが宿主たる宇宙や自然界や地球を破壊して、結果として地球人である人間を滅ぼすことになる。ぼく自身も賢くなって、我慢して、宿主の地球と共存しなければいけない。地球に優しくしないと、人類が滅亡するぞということまで見えてくるわけです。
(中略)
だから、がんになった今の心境を一言で言えば、『がんよ、ありがとう』」(『のこす言葉 大林宣彦 戦争などいらない-未来に紡ぐ映画を』平凡社、2018年)
僕はこの言葉に大いに共感したのだが、いまの状況をこの言葉になぞらえれば、地球にとっては人間自体がウィルスである、という言い方もできる。
ウィルスにとってみても、人間を根絶させてしまったら宿主を失う。それと同じように、人間は地球と共存していかなければ宿主を失うのである。ウィルスと人間がうまく共存したいかなければならないのと同様に、人間は地球とうまく共存しなければならないのである。
ウィルスは、人間の果てしない活動にブレーキをかけた、という見方もできる。「コロナ前」の状態に完全に戻ることがいいことなのかどうなのか、いまの僕にはわからない。
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コメント
こ、これは試されているのか・・・。
「藤谷文子」
「大林監督の言葉」
「人間の果てしない活動にブレーキをかけた」
このキーワードから導き出される回答は。
「コロナウイルス=「平成ガメラシリーズにおけるギャオス」
でよいのでしょうか。
投稿: 江戸川 | 2020年5月19日 (火) 20時54分
江戸川君、大正解!…と言いたいところだが、クイズを出したつもりがないのに解答したパターンです!
平成ガメラシリーズは実は見たことがないのです。藤谷文子さんについてもスティーブン・セガールの娘という知識しかなく…。
しかしそういう深読みこそがこのブログの醍醐味!意識して書いたつもりのない文章が読者により新たな意味を付与されることが、書き手にとっては無上の喜びなのです。
投稿: onigawaragonzou | 2020年5月20日 (水) 00時53分