ファンのリアリティー
前回、是枝裕和監督の映画「海よりもまだ深く」のことを書いて、ひとつ、些細なことなのだが、思い出したことがあった。
たまに実家に帰ると、一人暮らしの母はよく、昼間にBSで再放送している「2時間ドラマ」を観ていることが多い。
なかには、わざわざ録画して観ているものもあるようである。
実家に戻るたびに、熱心に2時間ドラマを観ているのだが、僕はつい先日、あることに気づいた。
母がもっぱら熱心に観ている2時間ドラマが、『駅弁刑事・神保徳之助』(TBSテレビ)というシリーズだ、ということである。主演は、小林稔侍である。
僕は恐る恐る母に聞いた。
「ひょっとして、…小林稔侍のファンなの?」
「そうだよ」
いやあ驚いた。母が小林稔侍のファンだったなんて、初めて知った。
「橋爪功もね」
なんと、橋爪功が主演の2時間ドラマも熱心に観ているらしい。
「じゃあ、平泉成は?」
と試みに聞いてみたが、「あの人はほら、どちらかというと2時間ドラマでは脇役だから」といって、そこは違うようである。
僕が不思議なのは、キムタクとか福山雅治とかじゃないんだ、ということだった。年相応というか、同世代の俳優の方が、心惹かれるようなのである。
ま、考えてみれば僕自身も、いまは若い女優よりも同世代の女優に心惹かれることが多いから、同じことなのか。
ということは、自分がもっとジジイになったときにも、年相応の女優のファンになったりするのだろうか。どうもそこまでの実感が、まだわかない。
なんでこんなことを思い出したのかというと、映画「海よりもまだ深く」のなかで、団地に一人住まいしている樹木希林が、同じ団地にやはり一人住まいしている、橋爪功扮する老紳士が主宰しているクラシック音楽愛好サークルみたいな会に足繁く通い、その老紳士のクラシック音楽解説をうっとり聞く、という場面があったからである。その愛好会には、樹木希林だけでなく、団地に住む同世代の老婦人たちが、その老紳士のクラシック音楽解説を聞くことを楽しみに集まっていて、母が2時間ドラマの小林稔侍や橋爪功にハマっているのを間近に見て、映画のその場面が、急にリアリティーのあるものとして感じられたのである。
ひょっとして是枝監督は、この映画でそういったディテールを描きたかったんじゃないだろうか。
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