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続・ご油断なく

『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』(立東舎、2020年)は、圧巻の書である。なにしろ、全作品について詳細に語っているのだから。

まだ精読していないが、ひとつ、謎が解けた箇所がある。それは、大林映画によく出てくる「ご油断なく」という言葉の謎である。

大林監督は、映画「異人たちとの夏」について語っている箇所で、次のようなことを言っている。

「ーーそしてこの映画、本多猪四郎監督が八ツ目鰻屋の親父に扮しています。

大林 そうそう、それで、本多さんになにか一言いい台詞ないですか?と言ったら、「ご油断なく」、という。これが痺れたねえ。いい言葉だねえ猪さん、と。(後略)」(345頁)

で、この「ご油断なく」というところに脚注がついている。

「「ご油断なく」 本多猪四郎監督の演技によって新たな意味を持ったこの言葉は、その後の大林映画に頻繁に登場するようになる。『SADA ~戯作・阿部定の生涯』で狂言回しの嶋田久作が、『22歳の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』で筧利夫が、『理由』で柄本明が、と言った具合に、さりげなく、または効果的に使われている。元は盛岡弁だそう」

というわけで、僕が長年抱いていた謎は、「本多猪四郎監督がアドリブで『ご油断なく』と言ったところ、その言葉の響きに大林監督が感激し、その後の映画で使い続けた」という結論に落ち着いた。

ただ、これですべて解決したわけではない。岩手県出身でもない本多猪四郎監督が、なぜこの言葉を使ったのか、という疑問は、まだ解けてはいない。本多猪四郎監督は、どこかで、この言葉を聞いて、その言葉の響きに感激し、どこかで使おうと思ったのだろか。

だとすれば、両監督の響き合う言葉の感性に、思いを致さずにいられない。これもまた、映画史である。

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