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つじつまの合う物語

前回の記事で、高校時代の思い出を書いたので、もう少しノスタルジーに浸る。

コラムニストの小田嶋隆さんのTwitterを見ていたら、こんなツイートを見つけた。

母校、小石川高校の創立100周年記念誌『みんなの100年』が届いた。なんと7月に亡くなった岡康道の遺稿が掲載されている。それもオレが書くはずだった原稿(〆切を伸ばしたあげくに落とした)を代筆してくれたものだ。最後まで迷惑をかけた。最後まで楽しい男だった。ありがとうありがとう。」(2020年12月10日)

ツイートの中に登場する岡康道さんは、有名なCMプランナーで、小田嶋さんと高校時代からの無二の親友である。奇しくも、同じ早稲田大学に進み、しかも大まかにいえば同じ業界に進んだ同士となった。途中、絶縁したこともあったようだが、その後またもとの関係に戻った。

小田嶋さんと岡さんが対談している『人生の諸問題五十路越え』(小田嶋隆、岡康道、清野由美共著 、2019年)は、僕がちょうど50歳を超えたときに出た本である。その本を読んだばかりだったので、岡さんが亡くなったというニュースを聞いたときは、ビックリした。

「オレが書くはずだった原稿(〆切を伸ばしたあげくに落とした)を代筆してくれた」という部分を読むだけで、小田嶋さんの性格とか、岡さんとの関係といったことが、よくわかる。

同じ日の小田嶋さんのツイートに、写真付きで、こんなことも書かれていた。

「岡康道の原稿に付けられていた追記を以下に紹介しておきます。合掌。ありがとうありがとう。」

その写真には、100周年記念誌に岡さんが書いた文章の「追記」の部分だけが写っている。

「この原稿はコラムニストのI組小田嶋隆が書くことになっていた。提案したのは私だが、2ヶ月たっても一向に書かないので代筆している次第だ。そういえば小田嶋が期末試験に現れなかった日、私が左手で彼の答案を書き提出し、私が停学になったことがある。あの時小田嶋は「頼んでない」と言ったが、確かに頼まれていなかった。今回も同じようなことをしている。人はあまり変わらないものだ。TUGBOAT代表 岡康道(027I) クリエイティブディレクター CMプランナー」

さらにこの下に、編集部の追記があった。

「追記:このページを編集・寄稿してくれた岡康道君は2020年7月に逝去されました。日本を代表するクリエイティブ・ディレクターとして、多くのメディアで小石川高校時代の楽しさを紹介してくださったことに感謝します。(戸叶027C)」

これを読んで、小田嶋さんは泣いたのではないかと思う。僕だったら絶対泣く。

だって、親友が死んでから5か月後に、メッセージが届いたんだぜ。しかも、遅筆の小田嶋さんの代わりに岡さんが代筆していたことを、小田嶋さんは知らなかった。岡さんは、小田嶋さんの性格を知っていて、代筆の覚悟をしていたのだろう。でもそのことは言わなかった。

それはまるで、高校時代に頼んでもいないのに勝手に小田嶋さんの期末試験の答案を代筆した時の如くである。

岡さんは人生の最後に、小田嶋さんとの高校時代の関係性を再現してみせたのである。

これを粋なはからいといわずして、なんと言おう。泣いたあとは、きっと笑ったに違いない。「最後まで楽しい男だった」と。

高校時代の伏線が、人生の最後に回収される。人生とは、なんとつじつまの合う物語なのだろう。

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