エズい世の中
ほんと、いまのご時世、Facebookで会食(飲み会)の写真をあげている人って、どういうつもりなんだろう。けっこういるんだな、これが。「人はなぜSNSの中では無防備になるのか」というタイトルの新書を書きたいくらいだ。
新書のタイトルで思い出したが、こんな新書のタイトルを考えてみた。
「不倫をした野党政治家はなぜネトウヨ化するのか」
「売れっ子放送作家のラジオ番組はなぜつまらないのか」
どうだろう。売れるだろうか。
そんなことはどうでもいい。
ずいぶん前に買った、大西巨人原作・荒井晴彦脚本『シナリオ 神聖喜劇』(太田出版、2004年)を、思い立って少しずつ読み始めている。
大西巨人の大長編小説『神聖喜劇』については、このブログでも以前に書いたことがある。
この中に、村崎一等兵の台詞として、こんな台詞がある。
「はぁん、新聞記者か。……記者生活も簡単にゃ行くめえばってん、軍隊生活もエズウややこしいけんねぇ」
この「エズウ」に注釈がついていて、
「エズウ…「えずい」は、不快だ、こわい、薄情だ、ひどいの意。中世・近世語」
とある。これを読んで、また別のことを思い出した。「いずい」という方言についてである。
「前の勤務地」の隣県の方言なのだが、かつてその県出身の教え子のCさんと、こんな会話をした。
「『いずい』って、わかりますか?」
「『いずい』?わからないなあ」
「ほら、よく洋服の襟の後ろについているタグが肌にあたってむずがゆくなったりするでしょう。あの感覚が『いずい』です」
「『むずがゆい』とは違うの?」
「違います。『いずい』は『いずい』としか言いようがありません」
「ほう」
…そうか!「いずい」という方言は、中世・近世語で「不快だ、こわい、薄情だ、ひどい」という意味の「えずい」から来ているのか。柳田国男の周圏論からすると、もとは京都の言葉だったものが、地方に同心円状に伝わり、方言として残ったのかもしれない。
村崎一等兵の台詞にもう一度注目してみると、「ばってん」という言葉を使っていることから、九州の福岡あたりの出身ではないかと思われる。だとすると、ますます柳田国男の周圏論が説得力を帯びてくる。「えずい」という言葉が同心円状に広がり、まったく別の地方に方言として残っていることをこれは示しているのではないだろうか?
しかしいま現在、福岡で「えずい」という言葉が使われているかどうかは、よくわからない。機会があったら、福岡出身の人に聞いてみることにしよう。
ところでこの『神聖喜劇』のシナリオ、澤井信一郎監督が映画化を考えていたらしい。あの名作『Wの悲劇』で知られる名監督である。
もちろん、澤井信一郎監督作品として見てみたいという一方で、これこそ、大林宣彦監督作品として見てみたかった気がする。
なにしろ情報過多、溢れるような長台詞の応酬である。これを、『青春デンデケデケデケ』のようなスタイルで撮影・編集したら、大傑作になったのではあるまいか。
いまはその映像を想像しながら、このシナリオを読み進めることにしよう。
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コメント
「いずい」は感覚の表現なので非常に我が県以外の人に伝えるのが難しい。
記事中の用法以外にも、例えばこのご時世ならTV会議やWeb会議の何とも居心地が悪い感じ。これまさに「いずい」
某インターネット百科事典に「はっきり拒絶できない割りに鬱屈する東北人の感性を代表する言葉」と記載があります。
言い得て妙ですが、百科事典でけなされてる感じがしていずい。
投稿: 江戸川 | 2020年12月23日 (水) 19時51分
同じ「いずい(えずい)」でも、北と南ではニュアンスが微妙に違うのもまた、おもしろいです。
投稿: onigawaragonzou | 2020年12月30日 (水) 18時20分