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ちょっとだけノスタルジー

12月10日(木)

今日は外回りの仕事。用務先は3カ所である。

1カ所目での用務が思ってたより早く終わり、2カ所目の用務まで少し時間がある。

「どうしますか?まだ少し時間がありますね」

一緒にまわってくれている「トラック野郎のSさん」が聞いた。

車は懐かしい道を走っている。忌野清志郎が歌った坂だ。

「この道を行くと、K駅を通りますよね」

「ええ」

「そこで降ろしてください」

「わかりました。ではこちらでお昼を済ませていただいて、のちほど時間になったらT駅まで来てください」

「わかりました」

僕はK駅の前で車を降りた。高校時代、3年間通った町だ。

個性的だった駅舎は、僕が卒業してしばらくして取り壊されてしまい、おもしろくもなんともない駅に生まれ変わってしまったが、住民の運動の成果か、つい最近、かつてのかわいらしい駅舎が復原されていた。

それでも、町はだいぶ変わってしまった。

(T書店がなくなってしまったんだな…)

駅前に2つの書店があった。T書店とM書店である。駅に近い方がT書店。高校時代、どちらの書店にもよく通った。

(M書店はどうなっているんだろう?)

駅から少し南に歩いたところにM書店がある。お店の前まで来て、記憶がよみがえってきた。この書店は、建物の1階と地下に売場がある。1階は文庫本とか雑誌などで、地下は専門書や教養書が並んでいる。僕が高校の時と、基本的には変わっていない。そして僕は、この地下の専門書のコーナーが好きだったのだ。エスカレーターで地下に降りていくと、そこは教養のワンダーランドだったのである。

(そうそう、こんな感じだったなあ…)

本棚に、雑然と並ぶ専門書。決して数は多いとは言えないのだが、僕からしてみたらツボを押さえた本ばかりが並んでいる。

(高校時代に通っていたときから、ブレてないなあ)

本棚を見ているだけで楽しい。

そういえば、高校時代も、こんなふうにして、この書店の地下で過ごしていた。

だがいまはすっかり勘が鈍ってしまった。たとえば最近ラジオなんかで紹介されて気になっている本を探してみようとするのだが、この雑然とした並びの中から、それを見つけるのはなかなか時間がかかる。高校時代は、折にふれて通っていたから、どこにどんな本が置いてあるのかが、だいたいわかっていたと思う。

最近だと、本の検索システムがあったりするのだが、この書店のどこを見渡しても、そんなものは見当たらない。

(なるほど。自分で探せっていうことだな)

考えてみれば、高校時代にもそんなものはなかった。時間をかけて本棚を眺めては、おもしろそうな本を手に取ったものだった。あらかじめ買おうと思っていた本を探しているうちに、別のおもしろそうな本を見つけたり。

もちろん、どこの本屋に行ってもその楽しみはあるのだが、とくにこの書店は品揃えが(売れ筋のものばかりではなく)個性的で誠実で謹厳実直なので、その楽しみが倍増するのである。

(へえ、こんな本があるのか)

本の背表紙のタイトルを見るだけなのだが、そこで新しい言葉を覚えたり、著者の名前を覚えたり、少し背伸びをした考えを学んだり、高校時代は、そんなことをしていたのだ。贅沢な時間だった。

(そろそろ行かなくては)

お昼は、やはり高校時代によく通った茶房に入った。

(ここも全然変わってないなあ…)

次に訪れることができるのは、いつだろう。

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