俺は発見されたのか?
1月8日(金)
TBSラジオ「アシタノカレッジ 金曜日」を聴いていたら、
「初夢に武田砂鉄さんが出てきました」
というリスナーのメールがけっこう来ていたとかで、思わず笑ってしまった。曰く、
「武田砂鉄さんに卒業論文の指導をされた」
とか、
「武田砂鉄さんがずっと横にいて締切厳守のプレッシャーをかけられた」
といった類い。僕が見た「ラジオ番組にゲストに呼ばれたにもかかわらず、『誰だこいつ?』という顔をされた」というのと、同じようなテイストである。というか、武田砂鉄が初夢に出てくる確率はけっこう高いんじゃないだろうか?せっかくなら番組宛てにメールを出せばよかったな…。
そんなことはどうでもよい。
この日のゲストが歌人の穗村弘さんだった。穗村さんのエッセイは、ちょっと自虐的なところが好きである。
ラジオの中で、
「毎日郵便受けをチェックして、『君は天才だ!』という手紙が来ないか、待ち続けていた」
と言っていたのがおもしろかった。つまり、
「誰か俺(の才能)を発見してくれ!!」
と、待ち続けたというのである。
穗村さんは、晴れてその才能が発見されていまに至るわけだが、僕はいまでも、「誰か俺のことを発見してくれ」と待ち続けている。
そんな、今日の出来事。
職場に出勤すると、今日は緊急事態宣言に対応するための会議があるし、パソコンを開くと朝から大量のメールが来ているし、またこんなことで1日が終わってしまうのか、とゲンナリしていると、大量のメールの中の1通に目がとまった。職場の広報担当からである。
「A新聞のT様より、取材の依頼が来ております。
お受けになられる場合は、直接先方にご連絡お願いいたします。
お断りになる場合は、広報担当から断りますので、
その旨広報担当までご連絡ください。
ご検討をよろしくお願いいたします。」
転送されたメールの内容を読んでみると、三大紙といっても、僕にとってほとんど縁もゆかりもない県の支局の記者からのメールだった。どちらかといえば地味な県で、47都道府県を順番に言っていくと、後の方になってようやく出てくる、というイメージの県である。
しかしその内容がじつにおもしろい。というか、この内容だと、俺が取材を受けるしかないだろ!
僕はその取材を受けることにした。会議が終わった後の昼休みに、T記者宛てに、取材内容に対するコメントを含めた、長いメールを書いた。ついでに、その取材内容に関係すると思われる、僕の書いた本や原稿を紹介した。
するとほどなくして、返信が来た。
「メールをありがとうございます。お聞きしたいのは、○○についてと、××についてです。後ほど電話を差し上げたいのですが、よろしいでしょうか」
僕は、(コメントはさっきメールに書いたんだがな‥)と思いながらも、
「4時から1時間半ほど打ち合わせが入っているので、その前後であれば大丈夫です」
と返信した。
3時50分になって、電話が鳴った。電話を取ると、T記者だった。
(おいおい、会議の10分前だよ…)
と思ったのだが、T記者は、
「短い時間でけっこうですので、取材にお答えいただければと」
「はあ」
僕はいろいろと話す気満々だったのだが、T記者は、2つぐらい質問をして、それを僕が手短に答えると、その答えを復唱して、「なるほど、そういうことなんですね」と感心して見せた。
「実はインターネットを検索していたら、たまたま鬼瓦先生のお名前を見つけまして、この記事にふさわしいコメントがいただけるかと…」
「そうでしたか」名前をネットで見つけただけで、僕の本を読む気はないらしい。
「先生の肩書きは、○×○×□△◇…でよろしいですか」
「はあ」
「ありがとうございました。あまり大きな記事にはならないかもしれませんが、記事になりましたら新聞をお送りいたします」
「そうですか」
電話取材は10分以内で終わった。
要は、僕に取材をしたというアリバイがほしかったのだな、ということに、電話を切った後になって気づいた。
すでに記事の内容はほとんどできていて、僕はその記者が作ったストーリーに合わせて喋らされたんだな。そういえば、以前もそんな取材を受けたことがあった。T記者は、とても丁寧な方だったので、そこには文句はないのだが、肉声を聞かなければ取材したことにならない、ということなのだろう。ネットで検索したらたまたま僕の名前を見つけたと言っていたが、この場合、「俺は発見された」ことになるのだろうか???いや、発見されたとしたら、自分の本が400冊も廃棄処分されるなどという憂き目には遭わないはずである。やはり僕はまだ発見されていないのだ。
三大紙とはいえ、その県の人しか見ることのできない地方版の片隅に僕の名前が載ることを想像して、僕は次の打ち合わせ場所に急いだ。
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