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悪戦苦闘を拝察する

2月6日(土)、7日(日)

2日間にわたるオンラインのイベントに参加して、少しばかり喋らなければならない。

本来ならば泊まりがけで現地に行って、対面でイベントを行う予定だったのだが、今年度は新型コロナウィルスの影響で、地元から出席する人は対面で、遠くから出席する人はオンラインで参加することになった。いわゆるハイブリッド方式である。

もう20年も続いているイベントで、僕は初めて呼ばれたのだが、もちろんこんなやり方は初めてだそうである。なのでノウハウがあるわけでもなく、担当者の方も、準備にかなり忙殺されていたらしい。

もともと僕が聞いていた予定はこうである。

「1日目は、玄人向けに、お話しください」

「はあ」

「2日目は、一般の方向けにお話しください」

「わかりました。1日目と2日目は、違う話をしなければならないのですか?」

「いえ、同じ内容でかまいません。ただ1日目は、玄人向けに、30分でお願いします。2日目は、一般の方向けに、わかりやすくお話しください。20分でお願いします」

「はあ」

「昨年までは、1日で済ませていたのですけれど、玄人の方と一般の方は分けた方がいいのではないかという意見が出て、今年度から、2日に分けて行うことになったのです」

「そうですか…」

仕事を増やすことになり誰も得しないのではないだろうか、と思ったのだが、決まってしまったのだから従うしかない。

「しかもですねえ。1日目の会場と2日目の会場は違う場所なんですよ。それに距離もけっこう離れています」

「違うんですか?」

「ええ。なので、我々地元にいる人間は、1日目の会場でのイベントが夕方に終わったあと、2日目の会場のある町に移動して1泊して、そこでまた朝からあらためて機材の設定をしなければなりません」

「それは大変ですね」

「1日目は、限られた人数でおこなうのでそれほど問題はないのですけれど、2日目は、かなり大きなホールに一般のお客さんを200人まで集めますので、感染対策も万全にしなければなりません」

「そうでしょうね」

「来ていただくお客さんは、例年の様子だと高齢の方がほとんどです」

「ますます心配ですね」

「しかもですねえ。当日、会場にお越しになれない方のために、YouTube配信もすることになりました」

「YouTube配信もですか!」

やることが多岐にわたりすぎる!!!

まず、Zoomの接続がうまくいくだろうか?ま、接続自体は、僕自身は何度もやっているのでたぶん問題はないだろう。

うまくいったとして、会場とスムーズにやりとりができるか?それを1日目の会場と2日目の会場、まったく異なる会場でやり遂げなければならない。とくに心配なのは、2日目に使う大きいホールは、Wi-Fiの環境が十分に整っているのか、やや心配である。

地元の主催者のみなさんは、1日目の会場から2日目の会場への移動をスムーズに行うことができるか?2つの会場は85㎞ほど離れている。

2日目の会場では、感染防止対策に細心の注意を払わなければならない。

しかも同時にYouTube配信しなければならない。

担当の方にとっては、すべてが気が気ではないであろう。

僕は、

(こんなご時世なのだから、1日にまとめちゃって、全部オンラインでやればいいんじゃね?)

とよっぽど言いたかったのだが、「大変ですねえ」ということしかできなかった。

「毎年、会場に来てお話を聴くことを楽しみにしているご高齢の方もいらっしゃいますので、できれば2日目は会場にお越しいただきたいと思うんです」

たしかに、ご高齢の方は、YouTube配信だなんだと言われても、なかなか難しいのだろう。各方面からの最大限の希望をくんで、この2日のイベントが計画されていることを、僕はあらためて知ったのである。

かくして、有史以来の未曾有のプロジェクトが始まった。

僕が心配なのは、Zoomの画面がちゃんと2つの会場で映るのか、逆に、会場の様子がZoomを通してわかるのか?といったことだった。Zoomの接続テスト自体は事前におこなっていたのだが、本当にたんなる接続テストを行っただけで、2つの会場で実際にスムーズに接続が行われるかは、まったくわからないのである。しかもZoomのアカウントとパスワードは、2つの会場で、まったく異なるものを使う、という、さらに複雑な様相を呈している。Zoomのアカウントとパスワードは、当日に知らせるという。

(大丈夫だろうか…)

不安な気持ちで当日を迎えた。

1日目の2月6日(土)。こぢんまりした会場だったこともあり、なんとか無事に終わった。

2日目の2月7日(日)。早朝にいただいたZoomのアカウントとパスワードで入ると、無事に会場とつながることができた。ただ、「会場のインターネット回線が不安定です」という文字が画面上に何度も出てきて、(大丈夫だろうか…)と心配になった。

念のため、別の端末を使ってYouTubeもたちあげて、会場ではスクリーン上の画面がどのように見えているかを確認してみたのだが、1つ恥ずかしいことに気づいた。

ふつう、ビデオをオフにした状態にしていると、真っ黒な画面に名前のみが映し出されるのだが、なぜか僕のZoomの設定では、名前の代わりに、鉛筆書きの僕の似顔絵が映ってしまう。それが会場のスクリーンにドーンと映し出されるのである。

オンラインで参加されているほかの講師お二人は、ビデオオフの画面が名前だけなのに対して、僕だけが、ふざけんな!とお叱りを受けそうな珍奇な似顔絵なのである。

といって、いまからその似顔絵を消すこともできず、そのままにしておくしかなかった。

さて、いよいよイベントの開始である。午前中は、やはりインターネットの回線が不安定だったようで、午前中にお話しになっている方の画面が、しばしば切れてしまった。

すると、そのたびごとに、僕の珍奇な似顔絵が、なぜか会場のスクリーンに大うつしになるのである。

(たのむから、僕の画面を最小化してくれよ!)

と言いたいのだが、どう伝えていいかわからない。

しかも、Zoomの画面とYouTubeと併用して見ていると、30秒ほどの時差があり、いったい自分はいまどちらの時間を生きているのだろうかと、頭がおかしくなりそうだった。たとえていえば、実際のラジオとradikoとを同時に聴くようなものである。

結局午前中は、僕の珍奇な似顔絵が会場のスクリーンの片隅にずっと映り込んだまま、予定の時間を終えたのだった。

たぶん、会場の担当の方もなんとかしなければいけないと思ったのだと思う。お昼休みの間に、猛烈な勢いで事態の改善を行っていただいたおかげで、午後の部は、インターネット回線もスムーズになり、僕の似顔絵もスクリーンの端っこに映し出されることなく、無事に会は終了したのだった。僕自身についていえば、やや時間をオーバーしてお話を終えたことが、いつもながらの反省点である。

どうにもわかりにくい話で失礼しました。

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