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もしイタ

3月12日(金)

今週も本当にいろいろなことがあったが、なんとか無事に金曜日を迎えた。

いつも書いているように、金曜日の夜は、TBSラジオ「アシタノカレッジ」の、武田砂鉄氏と澤田大樹記者のアフタートーク(YouTube配信)を聴いて、この1週間のことをクールダウンさせる。武田砂鉄氏が最後に必ず言う、

「来週もご無事でお過ごしください」

を聴いて来週の無事を祈り、そしてこの1週間がなんとか無事に終わったことに思いを致すことが習慣になっている。

今週のTBSラジオは「澤田大樹ウィーク」であった。

なんといっても、「アトロク」の「震災高校演劇特集」である。2年くらい前だったか、澤田大樹記者がプレゼンした「高校演劇特集」が神回と言われ、僕も当時それをラジオクラウドで聴いていて、鳥肌が立つというか、目から鱗が落ちるというか、高校演劇をまったく見たことがないのに、そんな感覚に陥ったのであった。

そして今回は、震災から10年経ったこともあり、震災をテーマにした高校演劇特集であった。

紹介された中で観てみたいと思ったのが、「もしイタ ~もしも高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら~」である。

作・演出は高校演劇のレジェンドといわれる畑澤聖悟氏。演ずるは高校演劇の強豪校、青森中央高校の演劇部員たちである。

これも澤田大樹記者からの知識だが、高校野球はどちらかといえば西日本の高校が強く、「白河の関」を越えると、甲子園大会で優勝することは難しいとよく言われる。しかし高校演劇はそうではない。むしろ東日本の方が優勢で、とくに青森県は強豪校がそろっている。畑澤聖悟氏が顧問をつとめる青森中央高校は、高校演劇のエリート中のエリートである。

なかでも伝説的な演劇が、「もしイタ」なのだ。

…と偉そうに語っているが、つい最近、知ったことである。

「アトロク」で聴いた知識によれば、この作品は、東日本大震災の被災地応援のために作られ、2011年9月から各地で上演されたのだという。震災からわずか半年後である。

被災地をまわって上演するので、どんな場所でも上演できるように、大道具も、小道具も、照明も、音響も、何も使わない。高校生たちが身一つで現地に行き、演劇部員が、背景となる樹木やカラス、犬なども含めてすべてを演じる。劇中歌も彼らがその場で歌う。

舞台装置や照明や効果音や劇中音楽などに慣れてしまっている僕にとっては、ラジオを聴いているだけでは、どんなふうにそれを演じているのか、今ひとつイメージがつかめない。

この作品をすでに観ていたというTBSの日比麻音子アナウンサーは、この作品のすごさに感動したというのだが、立派なセットや照明や音響がなくても心を揺さぶる作品というのは、どういうものなのだろう、と、興味を持ったのである。

で、ちょうどいま、「震災高校演劇アーカイブ」というサイトで、2月11日~4月11日まで配信イベントをやっていて、そこで「もしイタ」が観られるというのだ。しかも、無料だというではないか。

さっそく観てみることにした。

舞台装置も音響も劇中歌も、すべて高校の演劇部員たちがやっていることに、まったく違和感を抱かせない。むしろその熱量に圧倒されて、その世界にどっぷりと浸れるのである。いや、これこそが、最もプリミティブで、根源的な演劇ではないだろうか。

こういうたとえをしていいのかわからないが、僕は大学生の時に見た映画「フィールド・オブ・ドリームス」をちょっと思い出した。

そして、観ていてもう一つ浮かんだ映画が、大林宣彦監督の映画「この空の花 長岡花火物語」である。

僕はハッと思い出した。大林監督の「この空の花」の中でも、劇中劇として、高校演劇が上演されていたではないか!そうか、「もしイタ」を観ていてこみ上げてくる感情、以前にどこかで経験しているなあと思っていたら、「この空の花」の劇中劇を観たときにこみ上げてきた感情と非常に近いものだったのである。

そういえば、あの一輪車の高校生たちは、実際には青森の高校生たちだった。主人公の高校生「元木花」を演じた猪俣南さんは、いまは青森放送のアナウンサーである。

何より、「この空の花」の脚本を書いたのは、「弘前劇場」主宰の長谷川孝治氏である。この人も青森の人。

「もしイタ」を作・演出した畑澤聖悟さんは、「弘前劇場」に所属していたこともあり、つまりこのあたりはみんなつながっているのだ。

そう考えると、あのなんともいえない感情がこみ上げてくる「この空の花」は、青森の高校演劇の風土を肌で感じている長谷川孝治氏ならではの脚本といえるのではないか。

そのことに、いまになって気づいたのである。

「この空の花」は、戦争を知らない高校生が戦争を描こうとした高校演劇作品としても、もっと評価されるべきである。

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