大雨公園
3月28日(日)
午前9時半、3歳になったばかりの娘と二人で家を出た。
向かった先は、娘が「タイヤ公園」と勝手に呼んでいる公園で、公園にはタイヤが全くないのに、なぜかそう呼んでいる。家からゆっくり歩いて20分くらいかかるところにある。遊具がいろいろとあるので、娘が気に入っている公園である。
最近は、娘と公園に行くのがブームである。昨日も、実家の近くにある、遊具のある公園で午後のひとときを過ごした。
少し気になったのは、天気のことだった。空はどんより曇り、低い雲が立ちこめている。いまにも雨が降りそうな空である。
しかし、ピンポイントの天気予報を見ると、日中は曇りマークで、夕方6時くらいから雨マークに変わっていたので、たぶん大丈夫だろうと、雨具を持って行かなかった。
一抹の不安はあった。家から公園までも道のりは、完全なる住宅街で、途中で休むところもない。公園やその付近も、屋根の下で休むような場所が全くないのである。
(雨が降ったら防ぎようがないな…)
僕は雨具を持ってこなかったことを、公園に向かう途中で後悔した。
公園に着くと、いつもよりも若干遊んでいる子どもたちが少ない。この天気が影響しているのだろうと思った。
最初の30分ほどは、なんとか天気がもってくれたのだが、少しずつ、パラパラと小雨が降るようになってきた。
すると、少しずつ、公園から人がいなくなっていった。
それでも娘は小さな女の子と一緒に遊ぶようになり、一緒に土いじりなどをしていたが、やがてその小さな女の子も、家に帰ってしまった。
「おしっこ出ちゃった…」
娘が残念そうに言った。見ると、ズボンの両側におしっこの流れたあとがあった。娘はズボンがおしっこで濡れてしまったのを気持ち悪く思ったのか、がに股で歩き始めた。
「いま着替えようね」
何も遮るもののない公園で着替えさせるのは、なかなか難しい。しかも地面は砂地だから、靴を脱がせてズボンを着替えさせようとすると、足の裏がたちまち汚れてしまう。
娘をベンチの上に立たせて、おしっこまみれのパンツとズボンを脱がし始めた。
(漏らすことがわかってて、どうしてパンツを履かせてしまったかねえ。最初からオムツを履かせておけばよかった…)
と僕は後悔した。昨日も公園で遊んでいたとき、おしっこを漏らしてしまったのだ。
着替え終わった頃に、雨が少し強くなってきた。
「おうちへ帰ろう」
「イヤだ」
娘は駄々をこねた。すでに公園には誰ひとりいない。
「おうちに帰ったらケーキあるよ。ケーキ食べる?」
「ケーキ食べたい」
と、なんとか嘘をついて娘を説得したときには、すでに遅かった。
雨はものすごい勢いで降り始め、風も強くなった。
急いで公園を出て歩き始めたが、傘も雨がっぱもないので、僕と娘はたちまちずぶ濡れになった。
娘はいまにも泣きそうだったので、僕は急いで娘を抱っこして、歩いて5,6分のところにコミュニティーセンターがあることを思い出し、ひとまずそこに向かうことにした。
歩いている間も、容赦なく雨が振りつけてくる。
大雨の中を、傘もなく、小さい子どもを抱っこして歩いている人間なんぞ、どこにもいない。
「もうちょっとだからね、頑張ってね」
と、僕は泣きそうになりながら、娘にたびたび言い聞かせて、ようやくコミュニティーセンターに到着した。中に入ると、かろうじて玄関の部分だけが自由スペースだったが、椅子も何にもなく、僕も娘も立ったままなすすべもなかった。
ひとまず家にいる妻に、コミュニティーセンターで雨宿りしてると伝えると、「迎えに行きます」という。
僕は、小やみになったらタクシーを呼んで家に帰りたい心境だった。また家までの道のりを歩いて帰るのは勘弁してほしかった。
しばらくして、傘と雨がっぱをもった妻がコミュニティーセンターに現れた時には、すでに雨は小やみになっていた。
そこからまた、足場の悪い道をひたすら歩いて家に向かい、着いた頃にはもうヘトヘトになっていた。
娘はそのあとに体力を回復したようだが、僕は体調を崩し、午後はグッタリと過ごしたのであった。
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