新作落語・ごりん(習作)
お久しぶりでございます。鬼瓦亭権三(ごんざ)でございます。
久しぶりに、新作落語をひとつ。
とある長屋に、あだ名を「ごりん」というやつが住んでおりまして、そのごりんの長屋に、ある日兄貴分のバッハがやってきた。返事がないので入ってみると、何とごりんが死んでいる。そういえば、昨晩会ったときにアサリを食べていたが、さてはそいつに中(あた)りやがったな……。
「兄弟分の葬儀を出してやりたい」、そう思ったバッハだが、金がない。考え込んでいると、ちょうど上手い具合に屑屋のセイ公がやってきた。早速、その屑屋のセイ公を呼んで室内の物を引き取ってもらおうとするが、セイ公はごりんの家の家財道具のことは全部知っている。なんでも、何回もガラクタばかりを引き取らされたので引き取りたくないという。ますます困るバッハ。と、その時にあるアイディアが浮かんだ。
「月番のヤマシタを呼んでこい」
セイ公を月番のヤマシタの所に行かせ、長屋に住むスポンサー企業から香典を集めてくるよう言いつけさせるのがバッハの魂胆。セイ公は断るが、大臣の職をとられ、しぶしぶヤマシタの所へ。
「ごりんが死んだ」と聞き、喜ぶヤマシタ。しかしこれまでスポンサーにはごりんのために散々お金を工面してもらった手前、このうえ香典をもらいに行くのは気が進まなかったのだが、結局「ごりん中止の花火を打ち上げる代わりに香典を出すよう言って集めてくる」と了承した。
安心したセイ公だが、ごりんの家に戻ると、今度はスポンサーのビール会社に通夜に出すビールとつまみを届けさせるよう命令された。ところが、スポンサーのビール会社はドケチというかドライで有名。そのことを話すと、バッハは「断ったらこう言えばいい」と秘策を授ける。
「死骸のやり場に困っております。ここへ背負ってきますから、どうか面倒を見てやってください。ついでにたいまつを持って聖火ランナーにさせて、聖火リレーををご覧にいれます」
仕方なくスポンサーのビール会社へ行ったセイ公。ごりんが死んだと聞き、大喜びするビール会社。しかし、ビールとつまみの申し出は拒絶。なんとこのごりんという男、このビール会社からただ酒をしこたま飲んでいたらしい。
すかさずセイ公が「ごりんの死骸にたいまつを持たせて聖火ランナーとして走らせるぞ」という話をすると「やれるものならやってみろ!!」。
セイ公がそのことをバッハに伝えると、何とバッハはセイ公にごりんの死骸を担がせ、本当にビール会社へ乗り込んでしまった。そして、死骸にたいまつを持たせ、文楽人形のように動かし、聖火リレーをしてみせた。本当にやると思っていなかったスポンサーのビール会社はすっかり縮み上がってしまい、ビールとつまみを出すよう約束した。
これで解放されたと思ったセイ公。だが、今度はスポンサーの自動車会社の所へ「棺桶代わりに使うから、自動車を借りてこい」と命令された。「ハイ…イエース…」と、しぶしぶ行くと、ごりんが死んだことを聞いてやはりスポンサーの自動車会社はたいそう喜び、申し入れは断られた。「聖火リレー」の話をすると先ほど同様「やってみろ」と言われるが、つい今しがたスポンサーのビール会社で実演してきたばかりだと言うと「何台でもいいから持っていけー!」。
これで葬式の準備が整った。セイ公がごりんの家に戻ると、ビール会社からビールとつまみが届いている。バッハに勧められ、しぶしぶビールを飲んだセイ公。ところが、このセイ公、かなりの酒乱で、酒を飲んで興が乗るとやたらめったら接吻をしまくる。おいおいそれはセクハラだよ、という制止も聞かず、「おいバッハ、もっとビールを持ってこい!スポンサーのビール会社がイヤだって言ったら、ごりんの死骸にたいまつを持たせて聖火ランナーをやらせるぞ!」
何だか分からなくなったバッハは言われたとおりにビールを持ってくる。そうこうしているうちに、話はごりんの葬礼へ。スポンサーの自動車会社からぶんどった自動車にごりんを放り込んだ。
「どこ行くんだい?」
「決まってらあな。東京湾に行って海に投げ捨てるのよ」
廃車寸前の車だったせいか、道中で底が抜けて、中のごりんが落っこちてしまい、東京湾に着いた頃にはごりんの死骸はなかった。仕方なく死骸を探しに戻ると、橋のたもとでモリの坊主が、いびきをかいて眠っている。酔った二人はそれを死骸と勘違いし、車に押し込んで東京湾に連行するとそのまま海の中へ放り込んでしまった。
ところがこの海、ヘドロがたまっていて臭くってたまらない。さすがにモリの坊主、目が覚めた。
「おい、いきなり何しやがるんだい!どうせ面白おかしく書こうって魂胆だろ。ここはどこだ!?」
「トライアスロンをする予定だった東京湾だ」
「どうりで臭いと思った。おい、アサリを持ってこい!」
おあとがよろしいようで。
(Wikipedia「らくだ」の「あらすじ」をもとに改変)
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コメント
「伝統の再発見」をテーマにした今回のオリンピック開会式。
オープニング・アトラクションの模様を同時生中継でお送りしております。
ぺぺ桜井、アサダニ世のパフォーマンスに続いて、ゴンザレス鬼瓦亭の英語落語が終わりました。
みなさまご存じのように、3月の演出家辞任に伴いプログラムが全て作り直しとなりまして、アトラクションの台本が最終決定したのはなんと、昨日のリハーサル直前のことでした。
このオープニング・アトラクションも、当初は3000人の笑い屋エキストラを集めて「かんかんのう」を踊る計画となっていましたが、結局ボランティアが集まらず、無観客の新国立競技場の中央にぽつんとおかれた高座での口演となりました。
新国立競技場の芝の中に、するするとセンターマイクが沈み込んでいきます。
頭上にはブルーインパルスが飛んできました。真夏の青空に、五つの輪を描きます。
そして、何枚も何枚も白い布のようなものを正確に投下していきます。
みるみるうちに新国立競技場が白い布で包まれました。
まるでクリストの作品のようです。
いよいよです。
世界初、完全プロジェクト・マッピング方式によるリモート選手入場が始まります!
投稿: 🐢 | 2021年3月19日 (金) 09時49分