事実はドラマよりも奇なり
4月2日(金)
新年度2日目だが、すでに2日目から前途多難な船出である。これで1年間、自分の心が持つかどうか心配である。
まあそれでも、金曜日の夜はTBSラジオ「アシタノカレッジ金曜日」の、武田砂鉄氏と澤田大樹記者のYouTubeによるアフタートークを楽しめれば、無事に1週間を過ごせたことにしよう。
今日のアフタートークもおもしろかった。
来週月曜日のアトロク(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」)の「ビヨンド・ザ・カルチャー」という1時間の特集コーナーで、武田砂鉄氏が音楽ジャンルの一つであるメタルについてのプレゼンをやるのだという。
ついに念願叶ってのアトロクデビューということになるのだが、アトロク初出演の武田砂鉄氏に対し、澤田大樹記者が、自分の出演経験をもとに、「アトロク攻略法3か条」を得意げに伝授していたのが、まるで学生時代にモテない男子同士が、「女子を落とす攻略法」について真面目に語り合っている場面を彷彿とさせ、微笑ましくなった。
…いや、今日書きたいのはそんなことではない。今週の月曜日の話を書きたいのである。
いま、6月に発行予定の、ある雑誌の編集を担当しているのだが、今週の月曜日は、その表紙の打ち合わせのために、日ごろ編集作業でお世話になっている都内の出版社を訪れた。前にも一度訪れたことのある出版社である。
その出版社は、雑居ビルの一室にある、従業員数名の小さな出版社で、町工場的な雰囲気のするものづくりの現場である。そこの社長さんも、町工場の社長さんのような趣がある。小さい出版社ながら、精力的に数多くの本を出版している。
部屋の奥に小さなテーブルがあり、そこで打ち合わせが始まった。
こっちが思いついたアイデアをもとに、編集者とデザイナーさんが、イメージを膨らませる。
「いっそ表紙の紙をこれまでとは違うものにしましょう。たぶん質感が大事になってくるので、○×紙なんかどうだろう?安っぽく見えないかな?」と編集者。
するとデザイナーさんが、
「そうですね。○△×紙にすれば、それほど違和感ないでしょうし、コストもかからないと思います」
「そこに箔をつけることできる?」
「ええ、できます」
「あ、でもバーコードを入れなきゃいけないんだよね」
「それはかくかくしかじかのやり方でやれば大丈夫かと」
みたいな会話が延々と続くのだが、聞いているこっちは、専門用語というか業界用語が多すぎて、さっぱりちんぷんかんぷんである。
しかし、何か前進していることだけはわかった。
「しかし、紙の質感を知りたいから、紙のサンプルがほしいんだよなあ…」
と編集者がつぶやいたそのとき、
「こんちわ~」
と、出入りの印刷業者らしき人がやってきた。請求書を持ってきたらしい。
「お!ちょうどいいときに来た!○○ちゃん!」
「何です?」
「いま、今度出る雑誌の表紙を考えているんだけど、かくかくしかじかのイメージで、はっきり言えば○○のパロディーを考えているんだけど、そうすると、これまでの表紙の紙じゃなくて、質感としては○×紙がいいでしょう?」
「そうですね」
「○×紙と、○△×紙と、どっちがいいかねえ」
「それだと、かくかくしかじかですねえ」
「なるほど。で、そこに箔をつけたいんだけど」
「あ~、なるほど。それなら、かくかくしかじかですねえ」
「それとイメージとしては、表紙はカバーをつけるのではなくって」
「わりと高めの帯にするんですね」
「そうそう。それで、コストはどのくらい増える?」
「それだと、かくかくしかじかですねえ」
「なるほど」
「あと、納期に少し余裕をみてもらわないと」
…ここまでの会話を聞いて、すっかり感心してしまった。
内容はちんぷんかんぷんなのだが、会話がツーカーなのである。
「蛇の道は蛇」とは、まさにこのことなのだろう。
「じゃあ○○ちゃんさあ、こんどサンプルもってきてよ」
「わかりました」
…はたして僕が最初に出したアイデアは、どのような形になってあらわれるのか?この会話を聞いた限りではよくわからないのだが、僕のいたずらなアイデアが、プロの編集者やデザイナーや印刷業者によって確実にいいものになるだろうということだけは予感できた。
町工場のような小さな1室で、職人同士の会話を聞いている気分になり、やっぱりプロってスゴいなあ。ものづくりは(手作り感があるほど)おもしろいなあということを、あらためて実感させてくれた。
みんな、ドラマに出てくるようなキャラが立っている人ばかりである。いや、町工場的出版社を舞台にしたドラマが作れるんじゃないか?
表紙の紙の打ち合わせをしているときに、ちょうどタイミングよく出入りの印刷業者が「こんちわ~」とあらわれるなんて、仕込んでたんじゃないの?と思いたくなるほど、事実はドラマよりも奇である。
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