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これでも映画か?

大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、これまでの大林作品の清濁をすべて併せ呑んだような映画である。

清濁の「濁」のほうについてみると。

映画の中で、「男装の麗人」といわれた川島芳子が登場する場面がある。川島芳子に好意を持つ男性が、川島芳子にピストルで殺されるというところで、「好きです、芳子さん」というセリフが入る。これって、明らかに林家三平の「好きです(ヨシコさん)」の歌のパロディーだよね。

僕は見ていて、「ここでパロディー?」と、正直言って面食らったのであるが、これはたぶん、映画「金田一耕助の冒険」に通じる、監督のパロディー精神からきたものだと思う。

映画「金田一耕助の冒険」は、大林作品の中でも、賛否両論がある作品である。そもそも、当時のキャッチコピーが「これでも映画か?」とあるほど、はっきり言ってふざけた作品だった。

映画の中では、ありとあらゆるパロディーが炸裂する。もともと大林監督はテレビCMの演出をやってこられたので、映画の中で、そのパロディーを縦横無尽に駆使したのである。

結果、怪作というか、珍作ともいうべき映画が完成した。おそらく金田一映画ファンには噴飯物だったろうと思うが、なんともエネルギーに満ちあふれた映画である。

僕は「好きです、芳子さん」のセリフを聞いて、「金田一耕助の冒険」のパロディー精神を思い出したのである。

もう一つ、「海辺の映画館 キネマの玉手箱」では、ミュージカルシーンが登場する。

これも唐突で、面食らう場面だと思うのだが、これは映画「漂流教室」を彷彿とさせる。大林宣彦監督の映画で、劇中にミュージカルシーンが登場するのは、おそらく「漂流教室」だけだったと思う。

で、映画「漂流教室」は、大林作品の中でも、ほとんど封印されているといってもいいほどの珍作である。僕は大林監督ファンであると同時に楳図かずおファンなのだが、さすがにこの映画には戸惑いを抱かざるを得なかった。

のちに聞くところでは、映画の制作会社といろいろとトラブルがあり、開き直ってああいう作品になったのだということのようだった。

僕にとって、大林映画の中の「珍作3部作」は、「金田一耕助の冒険」「ねらわれた学園」「漂流教室」なのだが、「海辺の映画館 キネマの玉手箱」の中には、大林映画の「濁」の部分ともいうべき映画までをも取り入れ、文字通りの集大成になっているのである。

「キネマの玉手箱」の「玉手箱」という意味は、そういうことなのだろうと思う。

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