解放区
TBSラジオは好きだが、TBSテレビはあまり好きではない。
とくにイヤだったのは、土曜日の夜から日曜日の午後にかけてのTBSテレビの番組編成である。
以前、もう20年くらい前になると思うが、土曜日の夜10時に、「ブロードキャスター」という番組をやっていて、その中に「お父さんのためのワイドショー講座」というコーナーがあった。
平日の昼間、仕事のためにワイドショーを見ることができない「お父さん」のために、女性タレントがその週に放送されたワイドショーの話題をコンパクトに伝えるという趣旨の内容で、つまりは、「お母さんは主婦なので昼間にワイドショーを見ているが、仕事で忙しいお父さんはワイドショーを見ることができない。でもワイドショーの話題についていけないと、世間に乗り遅れますよ。だからお父さんのために教えて差し上げるのです」という、いまのジェンダー観からすれば明らかに炎上するであろうことを、平然とやっていたのだ。そのコーナーの司会が女性だったのも、「女性はワイドショーの話題に詳しい」という、これまた昭和的なステレオタイプのジェンダー観にもとづいたキャスティングだった。
で、次は日曜日朝の「サンデーモーニング」である。この中に、プロ野球界のレジェンド的存在のOBが、あらゆるジャンルのスポーツに対して、何の権限なのか、「アッパレ!」とか「喝!」とかを判定するコーナーがある。まじめなニュースの合間に、スポーツ好きの「お父さん」に楽しんでもらう意図なのだろうか。僕はスポーツ観戦嫌いだし、何より「喝!」と叫ぶそのプロ野球界のレジェンドが、家父長制の権化みたいな存在に見えてしまい、このコーナーだけはどうしても見ることができない。
で、極めつけは、「噂の東京マガジン」である。出演者はアシスタントの女性ひとりを除いて、全員がアラフォー以上の男性。この番組の中に、道行く若い女性に料理を作らせて、うまく作れない女性に対して、スタジオで男性出演者たちが笑い、最後はプロの男性料理人が、正しい料理の作り方を伝授する、というコーナーがあった。これを見て、多くの男性視聴者たちは、溜飲を下げたのだろうか。よくわからない。
つまり、土曜の夜から日曜日のお昼過ぎまでの「ブロードキャスター」→「サンデーモーニング」→「噂の東京マガジン」というTBSテレビの番組の流れは、昭和のおじさん目線で作られた、「昭和のおじさんの解放区」だったのである。現在は、「ブロードキャスター」は終了し、「噂の東京マガジン」はBSに移転したようだが、「サンデーモーニング」の「喝!」のコーナーはいまだに健在である。
加えて最近は、日曜夜の「日曜劇場」で、「半沢直樹」みたいな、これまた昭和のおじさん目線的なドラマが作られてしているので、いまもなお土曜から日曜にかけての「昭和のおじさんの解放区」の名残をとどめているのである。
…こんなことを書いたのは、テレビ東京の、金曜夜というか深夜に、ジェーン・スー原作のドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」と、朝井麻由美原作のドラマ「ソロ活女子のススメ」を立て続けに観たからである。前者はTBSラジオリスナーの「業(ごう)」として、もともと観ることにしていたのだが、その流れでたまたま観た「ソロ活女子のススメ」がかなりおもしろかった。主人公の独身女性が、仕事のあとに、誰にも邪魔されることなく、さまざまなソロ活をするという物語で、テイストとしては、「孤独のグルメ」に近い。
二つのドラマは、男女問わず、1週間の仕事が終わったあとに観るドラマとして、ちょうどいい温度のドラマなのだ。ジェーン・スーさんが言うところの、「今週もよくぞ、よくぞ金曜日までたどり着きました!」という開放感に浸ることができるのである。
つまり、TBSテレビの土曜夜~日曜午後までが、昭和的おじさんの解放区であるのとはまったく別の意味で、テレビ東京の金曜深夜のドラマは、平日に働いているいまどきの人たちの解放区となっているのではないだろうか。
TBSラジオの顔ともいえるジェーン・スー原作のドラマが、なぜかTBSテレビでドラマ化されずに、テレビ東京でドラマ化されたという、一見して不思議に思える現象が起こったのは、そのようなことで説明がつくと思う。
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