他者と交わらぬ想い
4月15日(木)
ひとり合宿の2冊目は、土門蘭『戦争と五人の女』(文鳥社、2019年)である。
知り合いの編んだ本で紹介されていたので、読んでみることにした。
広島県呉市朝日町の遊郭街を舞台に、朝鮮戦争の休戦間近の1953年7月の1か月を描いた小説。登場するのは、さまざまな事情を抱えた5人の女性である。
僕自身のきわめて乏しい小説読書体験に引きつけていうと、この本を読んで、福永武彦の小説『忘却の河』を思い出した。僕の大好きな小説で、福永作品の中でもかなりの傑作である。
同じ時期に、同じ場所で暮らす人々。複雑な人間関係が交錯する。それぞれがどのような想いで生きているのか、あるいは、どのような想いで他者を見つめているのか。人々の想いは、時にすれ違い、時に重なり合う。
それを小説の技法として極めたものが、福永武彦の『忘却の河』である。
各章ごとに語りの主体が変わり、それぞれの独白という形で物語が進んでいく。それぞれが独立した物語でもあるし、全体を通すとそれは連作小説でもある。
それらを通じて、他者が決して知ることのできない個人の想いというものに、読者は気づかされるのである。
『戦争と五人の女』も、まさにそういう小説である。
的外れな感想かもしれないが、心覚えのために書いておく。
ちなみにこの本は装丁にも非常に凝っていて、地味だがとてもよく手になじむ作りになっている。
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