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堪忍袋

5月31日(月)

色校正を戻しに、都内にある出版社に向かう。久しぶりに、電車に乗って都内に出る。

引っ越したばかりとかで、以前に訪れたときとは場所が異なっている。最寄りの駅を降りてから、新しい住所を頼りにその出版社の場所を探し当てた。

色校正を戻しながら、少しばかり打合せをして帰ろうとすると、

「引っ越してからお客さんが来るのって、鬼瓦さんが初めてですよ」

と社長に言われた。

「そうですか。それは光栄です」

本当は本日午前着の速達で返送すればよかったのだが、間に合わず、やむなく直接出版社で手渡ししたのだった。

用事がすんで、町を歩いていると、緊急事態宣言下からなのだろう、休業している店が多い。

そんな中、強気の店を見つけた。

地下に入っていく飲み屋さんのようで、降りていく階段の入り口のところに、その店の案内板がある。お店の名前に「Beerなんとか」とあるので、ビールを売りにしている店なのだろう。

「6月1日から通常営業します!23:00まで、酒類を提供します!」

と書いてある。

すでに先週末に、6月1日から20日間の緊急事態宣言の延長が決まったはずだし、それ以前からも、緊急事態宣言が延長されるらしいということは、ささやかれていた。

それを知ってか知らずか、いや、当然知っていてあえて、6月1日からの通常営業と、酒類の提供に踏み切ることにしたのだろう。

同じお店の別の案内板のところには、

「全面喫煙!!」

と大きく書かれていた。もはや分煙する気もないらしい。

もちろん、公式的にはツッコミどころ満載の、あってはならないお店なのだろうが、しかし一方でそう書きたくなる気持ちもわかる。

国や自治体の政策として、飲食店イジメがすさまじい。実際のところは、飲食店によるクラスターよりも、医療施設や介護施設、職場といった方がクラスターが多く発生していることが、最近の調査でようやく実証されてきたのであるが、いまだに飲食店は、クラスターが発生する場所として悪者扱いである。

加えて、酒類の提供をやめるようにという要請は、飲食店に追い打ちをかけたものと思われる。

ここから先は、僕の想像だが、ごく最近、東京五輪の選手村に、お酒を持ち込むことを組織委員会が認めた、というニュースがあった。

このニュースを聞いた都内の飲食店業者は、どう思っただろう?

ふざけんな!と思ったに違いない。というか僕が飲食店業者だったら、そう思う。

どうして東京五輪の選手村にはお酒の持ち込みが認められるのに、都内の飲食店ではお酒を提供することができないのか?

それでとうとう、堪忍袋の緒が切れて、そのお店は6月1日からの通常営業に踏み切ったのではないだろうか?

僕がたまたま見た、その店だけでなく、他のお店でも、もうやってられねえよ!と、通常営業に踏み切る店が増えるのではないかと、僕は踏んでいる。

どう考えても、東京五輪を開催することと、緊急事態宣言により市民に制約を課すことは、矛盾している。目下のところ、この矛盾に対して明快な説明をしている五輪開催擁護派は、誰もいない。

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