なくなりそうでなくならないこうもり傘・完結編
5月21日(金)
午前中、ある会議があり、車で向かう。
朝、雨は降っていなかったが、このところ天気が不安定で、いつ雨が降ってもおかしくない天気だったので、こうもり傘を持って行った。もう7年以上も使っている、お気に入りのこうもり傘である。
ところがこの傘がいつのまにかなくなっていることに、あとになって気づいた。
たしかに朝、家を出るときに、こうもり傘を持って出たはずなのだが、傘がないのである。
僕はいささかパニックに陥った。以前に書いたように、このこうもり傘は、幾多のなくなりそうな危機を乗り越えて、これまで使ってきたのだ。
(いったん落ち着こう)
朝、出るときに傘を持って出て、車の助手席に置いた。それから車に乗り、会議が行われる目的の場所の近くの駐車場に車を停めた。
そのとき、雨が降っていたと思う。それで、車から出るときに、かばんをもって傘をさして、会議が行われる建物に向かったと思う。
会議の部屋に入る前、お腹の調子が悪かったので、建物の1階にあるトイレの個室に入った。ちなみに会議の部屋は、3階にある。
そのトイレの個室が、やや狭くて、長いこうもり傘をどうやって立てかけるか、ちょっと難儀した記憶がある。つまりこの時点では、傘は存在したのである。
無事に用を足して、3階にある会議の部屋に行き、そこから2時間以上、会議の部屋から一歩も出ることなく、会議に参加した。
会議が終わり、駐車場に戻り、車に乗る。たまたまその近くが実家だったので、実家に立ち寄ることにした。
実家に車を停めて、車から出ようとしたときに、傘がないことに気づいたのである。
実家でお昼を食べていても、傘が行方不明になったことが気になって仕方がない。
「傘なんてなくしたっていいじゃない。うちに、お父さんの持っていた傘が山ほどあるのよ。それを使ったらいいじゃないの」
玄関の傘立てを見ると、山ほどのこうもり傘が立ててある。
死んだ父もまた、忘れっぽかった性格なのか、やたらとこうもり傘を買う癖があったらしい。
「それでも、あの傘、気に入ってたんだよなあ」僕は諦めきれなかった。
そこで僕は、お昼ご飯を食べたあと、こうもり傘を探しに、先ほどまで会議をしていた建物に戻ることにした。
これまでの記憶を総合すると、会議の前に立ち寄ったトイレの個室に、傘を置きっぱなしにしてしまった可能性が極めて高い。会議室に傘を持っていった記憶がないからである。
僕は「トイレ一択」と踏んで、車を飛ばして会議をしていた建物に戻り、1階のトイレの個室に走ったのだが、そこにはこうもり傘はあとかたもなかった。
(やっぱりなかったか…)
実家に戻り、
「やっぱりこうもり傘をもらっていくよ」
と、僕は父のこうもり傘を代わりにもらっていったのだった。
(あるいはひょっとして、最初から僕は傘を持って出なかったのではないだろうか?そういえば朝、家を出たときは雨が降っていなかったしなあ。家に戻ったらその傘があったりして)
と一縷の望みをつないだが、残念ながら傘はなかった。やはり僕は、こうもり傘を持って出たらしい。
かくして僕は、7年以上使っていた愛用のこうもり傘と別れを告げ、期せずして、父の形見のこうもり傘をこれから使用することになった。
それにしても、自分の記憶力の衰えには、愕然とするばかりである。
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