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コロナ後の集い方

武田砂鉄『コンプレックス文化論』(文藝春秋)には、「天然パーマ」「下戸」「解雇」「一重」「親が金持ち」「セーラー服」「遅刻」「実家暮らし」「背が低い」「ハゲ」といったコンプレックスをテーマに、読者の思考を揺さぶる文章が書かれている。

「下戸」とはお酒が飲めない人のことを指す言葉である。この言葉自体に、お酒が飲めない人に対する蔑んだニュアンスをつい感じてしまうのだが、僕は4年前に大病を患ってからは、お酒をピタリとやめた。「飲めない」のではなく「飲まない」ことにしたのである。

それまでは、周りにはお酒が飲める人間として認知されていたし、自分自身も、そのようなふるまいをしていた。ところが、お酒を飲まないと決めてから、飲み会の風景がまるで違って見えるようになってきた。

この本でも取り上げているように飲み会における「とりあえずビール!」という言葉は、人権侵害にもあたるとても暴力的な言葉である。僕自身も、この言葉を以前は何の考えもなく使っていた。

そればかりではなく、「前の職場」では、何十人もいる学生たちとの飲み会(もちろん二十歳以上)をおこなうときに、学生たちがあんまりにもいろいろな飲み物を注文するものだから、飲み物が運ばれてから乾杯をするまでの時間が長くなることを警戒して、

「まずはじめは、ビールかウーロン茶を注文しなさい!そのあとに好きな飲み物を注文しなさい!」

と、まったく飲み物の自由を奪うような命令を学生たちにしたことが何度もあり、いま思うと顔から火が出るような思いである。

職場を移ってから、今度は仕事の関係でどうしても飲み会に出なければならないことが多くなり、これがまた苦痛であった。仕事が終わったあとの飲み会を楽しみにしている人が多かったりすると、自分だけテンションが低いと申し訳ないという気持ちになり、よけいに苦痛に感じる。

お酒を飲まなくなってから、体調を理由にそういう飲み会に、出なくてすむのならばなるべく出ないでおこうというスタンスに変わった。仕方なく出なければならない場合は、お酒を飲む人の観察に徹することにした。

そこから一つわかったことは、

「お酒の席で出るアイデアは、たいしたものではない」

ということだった。よく、「お酒を飲みながら話をするといいアイデアが浮かんだりする」という人がいるのだが、それは全くの間違いであることに気づいたのである。僕自身も、「この会議の続きはこのあとの懇親会で」というお決まりの台詞を述べたことが何度もあり、いまとなっては穴があったら入りたい気分である。

この本の中で、武田砂鉄氏は「友達とたくさん話がしたいときはバーミヤンでドリンクバーと決めています」と述べている。「飲み屋って、とにかくうるさいじゃないですか。友達5,6人でじっくり話す状態が一番楽しいし、話も奥深く掘られていきますけど、飲み屋って、その数名ですら分断しちゃうじゃないですか。なぜなら、周囲がすさまじくうるさいから。特定の人と話さなきゃいけなくなる。だから、レッツゴーバーミアんなんです」

この点も、お酒を飲まなくなってから、僕自身も実感していることである。

お酒を飲んでいた時期、そうねえ、40代前半頃まで、たとえば高校時代の友達何人かと飲みに行こう、となったときに、なぜか、集合日時は、土曜日の夕方6時、場所は新宿、というのがテンプレートだった。

新宿の繁華街の、居酒屋が各階に入っているような雑居ビルに入って、薄い仕切りしかないような狭いスペースに押し込められ、そこで大声で語り合うのである。しかもそこが喫煙可のようなお店だったら、もう最悪である。

いまから思えば、なぜ土曜日の夕方6時開始なのか?なぜ日中ではいけないのか?とか、なぜ新宿まで行かなければならないのか?といった数々の疑問が湧き上がるのだが、山下達郎の「DOWN TOWN」の影響によるものなのだろうか。おそらく学生時代のノリがそのまま続いていて、計画を立てる幹事は、そこから容易に脱却できないからなのだろう。

僕はあるときからそうした飲み会がホトホト嫌になったので、出なくてすむ場合は出ないようにしているのだが、幸い、この1年以上は、新型コロナウィルスのために仕事や遊びを含め、飲み会自体がおこなわれなくなったので、この飲み会文化がこのまま消えていってほしいと切に願っているところである。

それよりも、もし仕事の話をしたいのならば、飲み屋ではなく、勤務時間中にすませてほしいし、友達とじっくりと話がしたいときは、(日中に時間がとれるならば)日中にファミレスでじっくり話せばよいのだ。お酒は飲みたい人が、飲みたいときに飲みたいだけ飲めばよい。

そう、以前から提唱していた「ガスト会議」こそ、コロナ後の理想的な集い方である。

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