あの手この手
以前に、ある会社のインターネットサイトの連載コラムに、一度だけ執筆依頼を受けたことがある。
そのコラムは、ある大きなテーマに即した短い文章を書くというもので、月に1回程度のペースで、一人の執筆者ではなく、何人もの執筆者が代わる代わる書くことになっているようである。そのコーナーに何度も登場する人もいれば、僕のように、1回だけのゲスト、という人もいる。
僕はその会社の社員ではないのだが、その会社のある社員の人が僕を推薦してくれたらしく、ありがたいので引き受けることにし、2000字ほどの文章を書いて送ることにした。2019年のことである。
そんなことをすっかりと忘れていたのだが、つい最近、その会社からメールが来た。
「さて、このたび当社では、連載コラムの一部を書籍化する企画を進めております。○○○新書の一冊として、本年11月刊行に向け、準備をしております。このなかに、鬼瓦さんにご執筆いただいた記事を収録したく存じます。」
とあり、その下に、僕の書いた記事のリンク先が貼ってあった。
どんなことを書いたっけ?と見てみると、コラム全体のテーマ設定からは少し外れるような文章を書いてしまったな、と今さらながら思うのだが、先方の依頼だったのだから仕方がない。でもまあ我ながら「出来がいい」文章だったので、収録してもらうことは願ってもないことである。130本近くある連載コラムの中から、部外者の僕の文章を選んでいただいたことに感謝し、さっそく許諾する旨の回答書をお送りした。
送ったあとにあらためて契約内容を読んでみると、「印税のすべてはその会社が受領する」とあり、なんだ、ノーギャラか、と思ったのだが、まあ仕方がない。
そうかと思えば、以前にわが社が出している雑誌に4000字程度の文章を寄せたことがある。こちらの方は、本務として書いているので当然ノーギャラなのだが、少し前、「雑誌の販促のために社員が書いた文章をネットで公開します」という方針が出された。こちらの方はネットから書籍、ではなく、書籍からネット、である。
一般には「ここから先は書籍で」みたいに、一部を公開するという手を使うと思うのだが、この場合は、文章の全文を公開するのだという。ずいぶんと大盤振る舞いである。
別に反対する理由もなかったのでその方針で許諾したが、はたしてそれが雑誌の販促になるのかどうか、よくわからない。だれか有名な人、そうねえ、僕の世代で言えば、たとえば小泉今日子とかが話題にしてくれたらバズるかもしれない。つまり重要なのは誰が話題にするかであって、ネットとかラジオとか、媒体は関係ないのだ。たんにネットの海に放流するだけでは、誰も見てくれやしない。ネットの力を過信してはいけないのだ。
案の定、そのサイトはほとんど誰の目にもとまっていないようで、どれほどの効果があるのかははなはだ疑わしい。まあ、こちらの文章の方は、出来があまりよくなかったので、そのせいもあるのだろう。
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