ウガンダ人選手の憂鬱
7月16日(金)
東京五輪の開会式まであと1週間。
この2~3週間の間をとってみても、五輪開催に関するさまざまな問題点が浮き彫りになり、それらのニュースが大量に消費されていくばかりである。本当は、その一つ一つを、後世の歴史の教訓として残していかなければならないのだが、数十年も経てば、今目の前で起こっている信じがたい出来事や、間違った政治判断などは、忘れ去られてしまうのかと思うと、それをなかなか指をくわえてみているわけにもいかない。
たとえば、次のようなニュースは、早晩、忘れられてしまうだろう。
「大阪府泉佐野市は16日、東京五輪の事前合宿で市内に滞在している9人のウガンダ代表選手団のうち、重量挙げの男性選手1人が所在不明になったと発表した。ホテルの部屋に置き手紙があり、「ウガンダでの生活が厳しいので日本で生活したい」との内容が書かれていた。市は府警に通報し、行方を捜している。
発表によると、所在不明となったのはジュリアス・セチトレコ選手(20)。16日正午頃、毎日実施しているPCR検査の検体が提出されていないのに市職員が気付き、個室を確認したところ姿がなかった。同選手は来日前、世界ランキングで五輪出場圏内だったが、更新されたランキングで出場できないことがわかり、帰国する予定だった。
捜査関係者によると、16日朝に宿泊先近くのJR熊取駅(大阪府熊取町)で電車に乗り、新幹線に乗り換えて名古屋駅で降りたとの情報がある。
選手団は大会の新型コロナウイルス感染対策指針で、移動は原則、練習場所と宿泊先の往復に限られる。」(読売新聞7月16日)
6月19日に入国したウガンダ人選手団9名のうち、PCR検査の結果、新型コロナウィスルの陽性と判定された選手が2名出た、というニュースは、ウガンダ人選手団が外国人選手団のなかでも比較的早い段階で入国したこともあって、少なからぬ衝撃を与えたが、さらに新型コロナウィルスの問題とは別に、失踪した選手が出たというのである。
彼はまだ20歳で、日本に入国後に五輪に出場できないことがわかり、帰国しなければならなかったのだが、「ウガンダでの生活が厳しいので日本で生活したい」と置き手紙を残して失踪したのである。
これって、すげー哀しくない?しかもまだ20歳の青年である。
僕の大学時代の友人も、大学4年の時に、卒論に行き詰まって何か月か失踪したことがあったが、行く末が不安な20歳そこそこの若者は、ウガンダ人であれ、日本人であれ、思い詰めて逃げ出したくなることは当然あるのだ。
この場合の問題は、それが、五輪出場の候補者であるアスリートだということである。
ひとくちに「五輪アスリート」といっても、一人ひとりが抱えている事情はさまざまである。優秀なトレーナーや多くのスタッフに守られながらメダルに近づける人もいれば、文字通り生きていくために記録をのばさなければならない人も当然いるだろう。参加するすべての人がメダルに近づけるわけではなく、むしろメダルとは無縁のアスリートの方がはるかに多い。
僕が気になるのは、五輪の期間中にくり返し叫ばれる「アスリートの活躍が勇気や希望を与える」という言葉である。
「勇気や希望を与える」という言葉の不遜さはこの際措くとして、そんなきれい事ばかりが語られてよいのだろうか。百歩譲って、こんな言葉を吐けるとしたら、それはメダルに手が届く恵まれたアスリートのみではないだろうか。
「ウガンダでの生活が厳しいので日本で生活したい」と書き残し、失踪した20歳の青年は、「アスリートの活躍が勇気や希望を与える」という言葉を信じて、選手活動を続けていたのだろうか。僕はそのことを思うとき、とても複雑な気持ちになるのである。
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