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マチズモ

マチズモとは「男性優位主義」のことである。

武田砂鉄『マチズモを削り取れ』(集英社、2021年7月)は、この国の社会にこびりついた「マチズモ」をねちっこく検証している。『存在しない女たち』(河出書房新社)の日本版といってよい。

読んでいくと、いくつもの既視感に驚く。

「電車に乗るのが怖い」という章では、痴漢についての考察が述べられている。こんな記述がある。

「痴漢被害VS痴漢冤罪被害の状態を保っておくと、確かに両方とも存在している以上、双方の言い分に正当性が生じる。件数の違いを考えろよ、と言えば、件数が少ないからって見逃していいのかと言い返される。少ないからといって見逃してはいけない。だが、この「VS」のまま時間切れでお開き、エンドロールが流れてフィナーレを迎えてしまっていい議論なのか。それを繰り返す限り、そこにあるエピソードが強いものかどうかが世の中の空気を決めてしまう。」

「年間四万件以上発生していると思われる痴漢被害。ほのめかすのではなく、「痴漢はやめよう」とストレートに示すべきだ。それに尽きる。痴漢被害と冤罪被害、どっちもよくないよね、では、これからも変わらぬ日々がやってくる。今日も、手が伸びてくるかもしれない。これを変わらぬ日々としていいのだろうか。まさか、そんな日々にしていい、と思っているんだろうか」

痴漢被害と痴漢冤罪被害については、以前に少しだけふれたことがある。

犬笛のようなもの

そこでこんなことを書いた。ちょっと長くなるが引用する。

「周防監督の映画は基本的には好きなのだが、僕はこの映画を見ていない。

それは、「この映画って、功罪両面あるよね」という妻の言葉になるほどと思ったからである。

この映画は、痴漢のえん罪についての映画である。

何の罪もない一市民が、痴漢の容疑者として逮捕され、不当な取り調べを受けて裁判にかかる、というストーリー。

現在の刑事司法の不当なやり方に対する告発的な映画だ、というのはよくわかる。

そこを問題にしたいのではなく、この映画が、「痴漢のえん罪」をテーマにしたことが引っかかるのである。

たしかに痴漢のえん罪という事案は存在する。だが、実際に痴漢の被害にあった事件にくらべると、痴漢のえん罪というのは、おそらくごくわずかである。

にもかかわらず、おそらく、この映画をきっかけに、痴漢のえん罪というのが社会問題化し、テレビのワイドショーなんかでも大きく取り上げられた。

その結果、痴漢を訴えた側が加害者である、という本末転倒な論調が生まれたのである。

いやいやいや、実際には痴漢の被害の方が断然多いのだ。痴漢のえん罪が社会問題化したために、男性を不当に陥れるために痴漢を訴える女性があたかも多いような空気ができてしまった。

これは、痴漢を訴えることに対して萎縮させてしまうことにもつながる。

ま、映画監督としては、ふつうの人が突然不当に逮捕されて不当な取り調べを受ける、もっとも身近な事例として、痴漢のえん罪という題材を選んだのだろうけれど、「でも、これが女性監督だったら、この題材にはしないよね」と妻。たしかにその通りである。

そんなわけで僕は、複雑な思いをもって、いまだにこの映画を見ることができていないのである。」

…これっておんなじこと言ってね?

また、「寿司は誰のもの?」という章では、次のような一節がある。

「『噂の!東京マガジン』(TBS系)に「やって!TRY」という長寿企画がある。ショッピングモールなどの片隅に仮設キッチンを作り、若い女性を中心に料理を作らせ、豪快に失敗するところを見て、ナレーションで茶化す企画だ。(中略)

スタジオに並ぶのは、一人の女性司会者を除けば中高年男性ばかり。VTRが終わった後で、その料理のスペシャリストが登場する。この料理人が漏れなく男性なのだ」

これも、以前にこのブログで書いたことがある。

解放区

そこで僕は、こんなことを書いた。

で、極めつけは、「噂の東京マガジン」である。出演者はアシスタントの女性ひとりを除いて、全員がアラフォー以上の男性。この番組の中に、道行く若い女性に料理を作らせて、うまく作れない女性に対して、スタジオで男性出演者たちが笑い、最後はプロの男性料理人が、正しい料理の作り方を伝授する、というコーナーがあった。これを見て、多くの男性視聴者たちは、溜飲を下げたのだろうか。よくわからない。」

…これなんか、書いてあることがほとんど同じである。すごくね?

ということはですよ。世間の現象に対する僕の目の付け所というのは、武田砂鉄氏並みに鋭い、ということなのである。

もう少しがんばれば、ライターとして食っていけるだろうか。

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コメント

鬼瓦さんが愛聴する「アシタノ」ラジオパーソナリティ🧲と、「私と同世代のラジオDJ」こと「ラジオの王様」👑が、100分deテレビ共演。

今週が第1回ですので、お見逃しなく。

投稿: 🐢📻 | 2021年9月 1日 (水) 23時07分

(誤)今週が第1回ですので
(正)来週が第1回ですので

ちなみに、この本持ってますが、テキストも買ちゃっいました(まだ読んでいないけど)。

投稿: 🐢(業務連絡) | 2021年9月 1日 (水) 23時13分

痴漢被害と冤罪被害どちらもゆるせません。痴漢被害ばかりが注目されがちだけれど冤罪被害で人生が台無しになることも絶対にあってはなりません。冤罪被害の被害者は守られないのが現実。冤罪被害の被害者がきちんと守られて冤罪被害の被害者の加害者は損害賠償を受けるなり社会的制裁を受けないといけません。

投稿: yokotagogo555 | 2023年12月11日 (月) 11時09分

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