作り置き
9月18日(土)
お彼岸が近いので、娘を連れて、実家の母や妹と一緒に、父のお墓参りをする。
台風の影響で、朝から大雨が降っていたので、当初はお墓参りを延期しようかとも考えたのだが、どうやら降ったりやんだりの天候になったので、雨が上がっている間に、お墓参りを済ませた。そのあとは実家に娘を連れて行く。
だいたい1ヵ月に1,2度ていど、週末に娘を連れて実家に行くことにしている。そこで日がな一日過ごすのである。
最近僕は実家に帰ると、娘の相手をしながら、その傍らで「むかしのカセットテープをパソコンに取り込む」という作業をしている。
こぶぎさんがコメントで書いてくれたように、アナログからデジタルへのダビングには実時間(1時間の番組はダビングも1時間)がかかるので、かなり気長な作業である。
カセットテープで録音したFM東京(現TOKYO FM)の「渡辺貞夫 マイディアライフ」が10本程度残っていたので、そのダビングをすべて終えた。
次に、MALTAのライブ音源が5本程度残っていたので、そのダビングも終えた。
しかしまあ、カセットテープをMP3に変換する作業は、思いのほか忍耐が必要となる。もうこれでやめようかな、と思っていたのだが、1984年の元旦から5日間にわたってNHK-FMで放送された「細野晴臣作曲講座」が第1夜から第5夜まですべて残っていたので(1回の放送時間は45分)、せっかくだからこれもダビングすることにした。
YMOが散開したのが1983年、その翌年の元旦から放送されたこの番組は、YMOロスの人たちにとっては、たぶん必聴の番組だったと思う。
「作曲講座」といっても、第1夜から第4夜までは、細野さんが若い頃にどんな音楽の影響を受け、いままでどんな音楽を手がけてきたか、といういわばヒストリーもので、いってみれば座学である。実際に作曲の実践をするのは第5夜だけである。
ただ、聴いていて興味深かったのは、他人に楽曲を提供するために、あるていどの数、曲を「作り置き」しておいて、依頼が来たときにすぐに対応できるようにしておく、というやり方を取っていた、ということを述べていたことである。
あるいは、ある歌手のために作曲したメロディーのアイデアがボツになった場合、そのメロディーを別の曲として転用することもあるそうなのである。
とくに当時、この番組を聴いていて衝撃的だったのは、第4夜で語られたエピソードである。細野さんが作曲を担当することになった中森明菜の「禁区」について、最初に出したデモテープがボツになり、そのメロディー案が後にYMOの「過激な淑女」となって生まれ変わったというのである。実際番組では、そのときにボツになったデモテープを流していたが、たしかに曲調は「過激な淑女」であった。
なるほど、たとえボツになっても、ほかの曲に転用すれば無駄がない。やはり「作り置き」は大事なのだ。
さて第5夜は、いよいよ作曲の実践編である。
この番組のパーソナリティーをつとめているのが、シンガーソングライターの遠藤京子(現・遠藤響子)さんである。遠藤さんが作詞し、細野さんが作曲をすることになり、その作曲の過程の一部始終を放送するという回だった。
遠藤さんがこの番組のために書いた歌のタイトルは「オー、ミステイク」である。
最終的に細野さんによって完成した「オー、ミステイク」は、じつにポップで耳に残る感じの曲となった。ちなみに同じ歌詞に遠藤さん自身が作曲してピアノで弾き語りするバージョンも流れたが、これはこれで耳心地がよく、同じ歌詞でも曲調によってぜんぜん違う雰囲気になるのだということが実感できた。
さて、この「オー、ミステイク」は、この番組のためだけに作られた、1夜限りの曲となってしまったが、その後も僕の中には細野さんの「オー、ミステイク」のメロディーが頭の中に残り続けた。
この放送から3年近く経ったある日、テレビで松本伊代が「月下美人」という歌を歌っているのを聴いて、僕は驚愕した。メロディーが「オー、ミステイク」そのものだったのである。
いまでこそ、このことは広く知られる事実になったが、当時僕は、中森明菜の「禁区」でボツになったメロディーがYMOの「過激な淑女」として生まれ変わったことを思い出し、
(なるほど、曲を作り置く、というのはこういうことなのか)
と、あらためてその極意を実感したのである。
さて、45分×5回、3時間45分もかかって「細野晴臣作曲講座」のダビングを終えたのだが、あとで調べてみると、誰かが動画サイトに、それもかなりの高音質で、この番組の全5回をアップしていた。
木村大作監督の映画「剣岳、点の記」のラストシーンのような心境である。
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