エマちゃん
10月2日(土)
妻が朝から夕方まで職場で仕事があるので、僕は3歳半になる娘を連れて、実家に行く。今日は夜まで娘の子守である。
午前中、実に久しぶりに、実家の近くの公園に行った。夏の間は、外に出ることがおっくうになるほど暑い日が続いたり、大雨で外に出られないことがあったりしたが、10月に入り、緊急事態宣言も解除され、とくに昨日は台風も通り過ぎて晴れ間が広がったため、久しぶりに公園に連れて行くことができたのである。ただ10月とはいっても、日中は気温がぐんぐんと上がり、日差しはまだ夏のように照りつけていた。その公園が、高速道路の高架下にあることがせめてもの救いである。
久しぶりに公園に行く娘も、ドキドキである。
「おともだち、いるかなあ」
ここでいう「おともだち」というのは、ふだんから親しいおともだち、という意味ではなく、娘と同じ歳くらいの子、というくらいの意味である。
「きっといるさ」
「いっしょにあそびたいけど、おはなしするのはずかしい」
娘はいつもそうなのだが、公園に着くとまずは、自分と同じくらいの年齢の子がいるかどうか、あたりを見渡す。ターゲットが見つかると、その「おともだち」と一緒に遊びたい、という気持ちがつのるのか、無言でその子に近づき、なんとか一緒に遊ぼうと試みる。
相手からすれば、同年齢くらいの見知らぬ子が無言で近づいてきて、ピタッとロックオンされたまま、どこへ行くにもついてくるのだから、遊びにくくってしょうがないのではないだろうか。みんながみんな、公園で見知らぬおともだちに近づかれることを歓迎しているとは限らないのだ。
「だまってないで、おはなしするんだよ」
と僕はアドバイスしたが、僕が娘の立場だったら、決してそんなことはできないだろうと思った。
今日は天気もいいし、緊急事態宣言も解除されたから、公園にはたくさんの子どもたちがいるだろうな、と思っていったら、拍子抜けするくらいに人がいなかった。こんな公園などではなく、もっと遠出をしている家族が多いのだろうか。
ひと組だけいた。若いお父さんが、娘さんと、その娘さんよりも小さい男の子の二人を連れて遊んでいる。おそらく姉弟であろう。
お姉さんの方は、うちの娘と同じような背丈なのだが、見たところ娘よりも身体能力が高いので、同い年ではなさそうだ。4歳くらいかな。
弟の方は、明らかにうちの娘よりも小さいので、2歳くらいだろう。
娘は、この親子連れのことが気になって仕方がない様子だった。とくに自分と同い年くらいの子の方にロックオンしたようで、すべり台で遊ぶときは、常にその子にピッタリと近づいて遊ぼうとしている。
娘の方は、その子と遊びたい気満々なのだが、相手の子にとってみれば、見知らぬ子が無言でピッタリとそばにいて離れないのだから、あまりいい気分ではないのかもしれない。たとえて言えば、不審者にストーキングされているような心境ではないだろうか。
「話しかけてみたら?」
と僕は娘に言った。
「どうやって?」
「何歳?って聞いてみたら?」
娘はさっそく、その子に「何歳?」と聞いた。するとその子は指を4本立てて、「4歳」と言った。
それに対して娘は、指を3本立てて、「○○ちゃんは3歳」と言った。相手の子の顔が、少しほころんだ。
この後、徐々に二人の距離は縮まっていった。最終的には、向こうの若い父親と僕を巻き込んで、「鬼ごっこ」と「かくれんぼ」をする羽目になってしまった。
娘を追いかけたり、娘に追いかけられたり、と、公園を走り回るだけの他愛もない遊びなのだが、僕は愕然とした。まったく「走れない」のである。下手をしたら、走って逃げていく3歳の娘を、本気で走っても捕まえることができないほどの、衰えっぷりだった。
病気に加えてこのコロナ禍でほとんど外出しなかったので、足腰がすっかり弱ってしまったのである。
「かくれんぼ」をくり返すうちに、すっかりと疲れてしまった。
「お昼ご飯の時間だし、もう帰ろう」
というと、娘は「ヤだ」と言った。4歳のお友だちも「ヤだ」と言っている。二人とも「かくれんぼ」が楽しいのだろう。
「また今度、一緒に遊んだらいいよ」と、若いお父さんはなだめるように言った。でもおそらく、一期一会だろうと僕は思った。
ようやくその4歳の子と3歳のうちの娘は納得したらしく、
「また遊ぼうね、バイバイ」
といって別れることになった。
反対方向に向かって歩き始めたとき、僕は娘に言った。
「そういえば、お友だちのお名前を聞かなかったね。なんて名前なんだろう?」
娘はそのお友だちのところに走って行き、名前を聞いた。
「エマちゃんだって」
「エマちゃんかぁ。覚えておこうね」
「うん」
娘はエマちゃんのことを忘れないだろうか。
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