気分は荻上チキ
11月6日(土)
最近はオンライン会議とか、オンライン会合のことしか書いていない。
この土日も、オンライン会合があった。
土曜日のオンライン会合は、参加人数も少ないし、自分にとってはアウェイな会だったので、最初は気軽に構えていたのだが、人数が少ないということは、何かコメントや質問を言わなければならず、結局そのために、午前10時から午後4時まで、パソコンの画面にはりついていなければならなかった。
11月7日(日)
この日のオンライン会合は、もうずいぶんと前から憂鬱であった。なぜなら、自分にとってちんぷんかんぷんな内容であることは明らかであるはずなのに、会合の最初から最後まで司会をするようにと、主催者の仕事仲間から言われてしまったからである。
登壇者のラインナップを見ると、
「この濃密なメンバー、しかも一人ひとりが個性的なテーマで話をするという会合を、ド素人の僕が、司会としてどのようにまわしていったらいいのか?」
と、憂鬱で仕方がなかったのである。
しかも、登壇者のうち何人かが、初対面なのである。何度か面識のある人でも、その人の仕事ぶりを完全に理解しているわけではない。そこでひとまず、登壇者のこれまでの職業的文章を読もうと思い、コピーをたくさんとったのだが、読んでもなかなか頭に入らない、というか、読む時間がない。
ええぃ!こうなったら何も予備知識を入れずに、バカなふりをして司会をしよう、と決めた。
いちばん不安なのは、それぞれの発表に対する個別の質問時間と、会合の最後に行われる総合討論である。
もし、質問が出なかったらどうしよう?そうした場合、ふつうは司会が時間つなぎのために質問をしたりするものなのだが、今回の場合、僕自身が内容をまったく理解できていないために、質問もできない。
総合討論では、今回の会合で大事だと思われる論点を司会が整理し、登壇者に投げかける、というのがよく行われていることなのだが、これもまた、僕自身の知識不足のために、論点を整理するなどという高度な技を実行することはできない。
憂鬱なまま、朝を迎えた。
朝9時開始。はじまって最初の数分は主催者の趣旨説明なのだが、それが終わるとすぐに、僕の「孤独な戦い」がはじまる。
(うわぁ~、はじまっちゃった)
もう後戻りできない。
一人ひとりの発表の後に、質問時間を設けているのだが、誰からも質問が出ないことのないように、あらかじめ、コメンテーターを仕込んでおく、ということを、主催者がやってくれていたのだが、直前になって、
「○○さんにお願いしようと思ったのですが、急遽欠席されるそうです」
「○○さんに、突然断られました。どうしましょう。困惑しております」
というメールが送られてくる。おいおい困惑しているのはこっちだよ、と言いたくなってしまった。
まあそれでもなんとか、午前の部は無事に終えた。
お昼休みは1時間だったが、僕は午後の発表者のコメンテーターが決まっていない、ということが気になって、会合に参加している韓国の友人に、急遽、コメントを依頼することにした。Zoomのチャットでお願いしたのだが、急いでいたので、ハングルの綴りもメチャクチャかもしれない、と思いながら、とにかく送信した。
するとほどなくして、
「ごめん。ちょっと難しいかも。もし発表者のお話を聞いて、何か喋ることを思いついたら話すことができるかもしれないけど、まず日本語で話すのが難しい。それに、昨日の会合の後、飲み過ぎて二日酔い」
そうだった。昨日、彼は韓国の会合に出ていたことを思い出した。会合の後に酒席で盛り上がったであろうことは十分に想像できた。
「事情はわかった。もし喋ってくれるなら、ちゃんとした通訳をつける」
と書くと、
「うーむ。やはり難しいかも。もし何か言うとしても、最後の総合討論の時までに考えを整理させて」
「わかった」
今度は、参加者のなかで、日本語が達者な、韓国語が母語の人にチャットでお願いをする。
「突然ごめんなさい。○○さんがひょっとしたらコメントを言ってくれるかもしれないので、そのときは通訳をお願いします」
するとほどなくして、
「わかりました」
という返信。これで準備は整った。
さて午後の部。午後の部も順調に進んだ。
そしていよいよ最後の総合討論の時間である。彼から僕宛てにチャットが入る。
「総合討論の時に喋らせて」
総合討論の時の彼のコメントは、わざわざそのためのペーパーを作り、まるでずっと以前から準備していたようなすばらしいものだった。午後になり、ようやく酒がぬけ、短い時間でコメントを準備したのだろう。お願いしていた通訳の人も、事前の心の準備があったおかげで、完璧な通訳をしてくれた。
おかげで討論は盛り上がり、いわば彼が火付け役になって、その後も刺激的な議論が続いて、大団円を迎えたのである。
朝9時から夕方6時まで、気の抜けないマルチタスクが続いた。まるで、長丁場の選挙特番を仕切る荻上チキになった心持ちである。
とにかく言いたいのは、
「この会合、俺だからまわせたんだぜ!」
という自負である。…というか、そんなことを思うのは、疲れすぎて自分が壊れてしまった証拠である。
| 固定リンク
コメント