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モストマスキュラー

11月9日(火)

妻が出張して3日目。

妻が出張で1週間不在の時は、娘になるべく「ママ」のことを思い出させないことを心がけなければいけない。なぜなら「ママ」のことが急に恋しくなって泣いてしまうからだ。だからこちらが不用意に「ママ」とかいった言葉を発してはいけないのである。

それは、実家から応援に来てくれている僕の母(つまり娘からすると「ばあば」)も心得ている。

「いいかい、ママを思い出させるような言葉を口にしちゃいけないよ」

「わかってるよ」とばあば。

保育園から帰ってきたあと、ばあばと3人で夕食。食べながら、ばあばが言った。

「これ、まあまあ美味くできたね」

すると突然娘が、

「ママ、まだ帰ってこないの?ママに会いたい」

と泣きそうな表情をした。

僕はばあばに小声でたしなめた。

「なんてこと言うんだよ!」

「なにがよ」

「ほら、泣きそうになってるだろ!」

「何も言ってないわよ」

「まあまあ美味しいって、言ったろ?」

「だって美味しいんだもん」

「そうじゃなくって、『まあまあ』という言葉がいけないんだよ!」

「あ、そうか…」

まるで寅さんの映画に出てくるワンシーンのようである。

記憶をたよりに書くが、離婚したばかりの女性が「とらや」に訪ねてくる。もちろん、寅さんの意中の「マドンナ」である。

寅さんは、とらやのみんなに、

「いいかい、離婚したばかりの人なんだから、別れたとか、離れたとか、切れたとか、そういう言葉は絶対に使うんじゃないぞ」

と、とらやの家族に釘を刺す。もちろんこれは、「絶対に押すなよ」的なフリである。

やがてその「マドンナ」がとらやにやってきて、最初はあたりさわりのない会話をしているのだが、おばちゃんあたりが、

「晴れたねえ」

と言い、

「ほんと、いい天気になったねえ」

と寅さんが返すと、

「雲が切れたんだね」

と言う。そこで寅さんが、「切れたなんて言葉を使うんじゃないよ」と、おばちゃんを小声でたしなめる。その後、たがが外れたように、さらに「禁句」のオンパレードとなり、とらやは大混乱になる。

そんなシーンが、「男はつらいよ」のシリーズで定番になっていたが、それを思い出したのである。

まあそれでも、娘は娘で、なるべくママのことを口に出さないと心がけているようだ。

ものまね、すかし、スラップスティックなど、一通りの笑いのパターンをつかんだようである。

「マカロニサラダばかりを食べないで、お肉を食べなさい」

というと、お肉を指さして「これはサラダ」、サラダを指さして「これはお肉」と言ったりする。「屁理屈の笑い」とでも言おうか。

ここ数日、ボディビルダーの「モストマスキュラー」のポーズをして見せていて、爆笑した。

こっちが爆笑すると、自分が面白いことをやっているんだと感じるのか、自分の立場が悪くなったりすると、モストマスキュラーのポーズをしてごまかしたりする。

「どこで覚えたの?」

と聞くと、

「テビル(テレビ)で見た」

と言うのだが、見せた記憶がなく、何かの番組でほんの一瞬見た場面を覚えていて、それが面白いと思い、まねをしたのだろう。恐るべき観察眼である。

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