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「推し活」は私を救う

「落ちる」というのは、「恋に落ちる」という意味ではなく、「沼に落ちる」という意味なんだね。

文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」で、木曜パートナーの小島慶子さんが、国連演説をしている韓国のアイドルグループ・BTSに興味を持ったと思ったら、

「気がついたら沼落ちしていたんですよ」

という。生まれてこの方、アイドルに無縁だったという小島慶子さんが、ふとしたきっかけで、アイドルの沼に落ちた。その瞬間、それまでの自分の思考の枠組みから解放され、新たな世界に気づいたというのである。

最近は、ジェーン・スーさんも、「推し活」をしているという。「推し」の対象は明らかにしていないが、「推し」を中心にした生活にガラリと変わったという。

この国において、「推し」のルーツは、「ヨン様」こと、ペ・ヨンジュン氏ではないかと思う。それを感じたのは、10年以上前に、韓国に1年ほど留学したときであった。

韓国のある田舎町の施設に行くと、受付の所にペ・ヨンジュン氏のサインが飾ってある。

たまたま、その受付に、日本人の方がいたので、聞いてみた。

「あれは、ペ・ヨンジュンさんのサインですよね」

「ええ」

「なぜこの場所にサインがあるんですか?」

「それは、ペ・ヨンジュンさんが韓国のよいところを紹介するための旅行エッセイを書くということで、この町に訪れたんです」

「そうなんですか」

「で、その本を読んだ日本のヨン様ファンの方が、次々とこの町に訪れたんです」

「なるほど、そうだったんですか」

僕はそれを聞いて、心底からヨン様ファンを尊敬した。

だって考えてもみたまえ。ヨン様ファンからしてみたら、その場所は「聖地」なのである。だがその「聖地」は、お世辞にも、交通の便がいいところとはいえない。最寄りの駅からもかなり離れた、陸の孤島のような場所なのである。

しかし日本のヨン様ファンは、「ヨン様と同じ空気を吸いたい」と思う一心で、韓国語を勉強し、韓国の地図を見て、電車の乗り方を覚え、さらにはタクシーを乗りこなして、陸の孤島のような町を訪れるのである。そこまで至るのに、どれだけのスキルアップをしたことか。その当時は「推し」なんて言葉はなかったが、今ならば立派な「推し活」である。

何度でも書くが、「推し活」は、決して世界を狭めはしない。むしろ世界を広げるのである。

そういえば、「前の職場」にいた頃、ある職員さんから、こんなことを頼まれたことがある。

「先生、今度、韓国に出張に行かれるんですよね」

「ええ、そうですけど」

「一つお願いがあるのですが」

「何でしょう?」

「韓国海苔をお土産に買ってきてください」

「それはかまいませんけど、いったいどうしてです?」

「実は僕の妻がヨン様の大ファンでして、韓国に行けなくても、ヨン様と同じ空気を感じたい、と思っているようでして」

「海苔でいいんですか?」

「ええ、海苔で十分だそうです。韓国から運んでいただいたというだけで、ヨン様と同じ空気を感じることができるんだそうです」

「そうですか。わかりました」

と、それほど高くない韓国海苔をお土産に買ってきて、ひどく喜ばれたのだった。

「推し活」は生きる希望を与えるものであり、自分の知識や世界を広げる最も理想的な方法なのではないだろうか。

…と、ここまでが前フリ。

小学校4年になる姪は、テレビ朝日のドラマ「科捜研の女」の大ファンである。姪からしてみると、「マリコ」こと、沢口靖子が「推し」の対象なのである。

レギュラー番組はもちろんのこと、つい最近ロードショー公開された、「科捜研の女 劇場版」をかぶりつきで観に行ったというのだから驚きである。

「『科捜研の女 劇場版』って、テレビで十分なのに、あんなもの、わざわざ映画にして、誰が観に行くんだろうね?うっひゃっひゃっ」

とバカにしていたら、いたねー、身近に。

姪は母親と二人で観に行ったらしいが、小学校4年生の姪と同じ熱量を持つ観客は、いなかったらしい。

さて今日。

職場の一斉メールに、「テレビ放映のお知らせ」と題するメールが来た。職場の同僚がテレビに出演したりすると、その情報を共有するメールが来るのである。

テレビ朝日ドラマ番組において、同僚の○○さんが監修された回につきまして、以下の通り、テレビ放映されますのでお知らせいたします」とあり、番組名を見たところ、それが「科捜研の女」だったのである。

その情報を、妻を通じて姪に伝えたところ、

「おじさんの同僚が『科捜研の女』を監修したと伝えると、興奮した姪が、おじさんの同僚のサインがほしいと言いだした。マリコ(沢口靖子)に会ってもいないと思うけど、と言ってもきかない。『関係していることがすばらしいんだ』って」

さあ、「推し活」をしているあなたなら、この心理はおわかりでしょう。

これこそが、「推し活」の真髄だ、ということを。

ヨン様が好きすぎて、同じ空気を吸いたいあまりに、韓国海苔のお土産をねだった人と、どこがどうちがうのだろうか?同じではないか。

さて、僕はその同僚にサインをもらうべきか?

「小4の姪が『科捜研の女』の大ファンなので、サインをください」

と頼むのは、どうかしている。韓国海苔を買うのとはわけが違うのだ。サインは諦めてもらうことにしよう。

しかし、これだけは言える。

姪は「科捜研の女」に「落ちた」ことによって、確実に、同学年の他のお友だちよりも、科学捜査に関する知識が詳しくなったのだ。

これが、姪の将来に影響を与えるかもしれない、という無限の可能性に、おじさんとしては、期待したいのである。

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