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シティガールズ

「和枝が死んじゃってさあ」

文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」の「メインディッシュ」のコーナーで、安藤和津がゲストのときに、大竹まことが不意に漏らしたひと言である。

「和枝」とは、俳優の角替和枝のこと。劇団東京乾電池の柄本明の妻で、息子の柄本佑、柄本時生は、いずれも俳優である。柄本佑は、安藤和津の子の安藤サクラと結婚したので、角替和枝と安藤和津の二人は親戚となり、子どもの結婚相手の母親同士、ということになる。そういう関係があったから、大竹まことは唐突に、角替和枝の死の話を持ち出したのであろう。

こんなことを、僕が唐突に思い出したのは、NHKのドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」で、松金よね子がエリコさんの母親役で出演していたからである。

シティボーイズがまだ売れない頃、「シティボーイズ」に対抗して、「シティガールズ」と名乗って同じ舞台に立っていたのが、角替和枝、松金よね子、岡本麗の3人である。つまり大竹まことと角替和枝は、むかしからの芝居仲間だったのである。ただしそれは、たんなる「芝居仲間」という以上の,深い絆があったことが、大竹まことのこのときの話からうかがえた。

角替和枝は、大林宣彦監督の映画に4回出演している。「異人たちとの夏」(1988年)、「北京的西瓜」(1989年)、「理由」(2004年)、「この空の花 長岡花火物語」(2012年)である。

その中でも一番印象に残っているのは、「異人たちとの夏」における、すき焼き屋の仲居役である。主人公の風間杜夫が、幽霊としてあらわれた両親(片岡鶴太郎、秋吉久美子)にすき焼きをごちそうするシーン。この映画の、一番重要なシーンである。角替和枝は、何事もなかったかのように、注文をとり、すき焼きを運んでくる。その自然な演技が、あのシーンをどれほど感動的なものにしたか、はかり知れない。

もう一つ印象に残っているのは、「この空の花 長岡花火物語」で、戦争の証言者のひとりとして、主人公の記者にその体験を語る役として出演している。その語りもまた、知らず知らずのうちに、戦争の悲惨さを追体験させるような、じつに自然な演技だった。ちなみにこの機会に告白すると、僕の娘の名前はこの映画からとっている。

僕が俳優としての角替和枝を観たのは、この映画が最後である。その後も数々の映画に出演したようだが、僕にとっては、これが遺作なのである。

僕は、エリコさんの母親役として松金よね子が出演しているのを観て、もし角替和枝が生きていたとしたら、ミホさんの母親役は、角替和枝がよかったかもしれない、と想像した。シティボーイズに憧れている阿佐ヶ谷姉妹にとっては、これ以上にないキャスティングになったことだろう。

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