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阿佐ヶ谷漂流記〜珍道中珍道中〜

12月27日(月)

3歳9ヵ月になる娘は、昨日から3日連続の予定で短期集中のプール講習である。今日はその2日目。

午前中、1時間半ばかり講習を受けるのだが、今日はそのほかに、午後にもう一つ、大事な予定があった。それは、阿佐ヶ谷に行く!という計画である。

すでに何度も書いているように、娘はいま、阿佐ヶ谷姉妹に夢中なのだ!NHKのドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」が終盤にせまった頃から、阿佐ヶ谷に行きたい、と何度も言っていたので、年末に連れて行く約束をしたのである。

問題はその日程である。日曜日に行くと混むだろうし、あまり年末に近づきすぎても混むだろう、ということで、昨日ではなく、今日と相成ったのである。

プール講習会場の最寄りの駅から、阿佐ヶ谷までは、電車でわずか数駅である。

そういえば、娘が電車に乗るというのも、じつに久しぶりではないだろうか。前回乗ったのはコロナ禍の前で、しかもベビーカーに乗って乗車したと記憶している。いまはもうベビーカーは不要である。

娘は電車のアナウンスを注意深く聞いた。

「次は~、○○、○○」

と流れてくる音声に対して、

「阿佐ヶ谷じゃな~い」

と残念がる。やがて、

「次は~、阿佐ヶ谷~、阿佐ヶ谷~」

という車内アナウンスが聞こえて、

「やったあ~!阿佐ヶ谷だ~」

と娘は小躍りした。

駅を降りて、最初に向かったのが、「gion」という喫茶店である。

プール講習を終えてお腹がペコペコの娘に、阿佐ヶ谷で何を食べさせようか?最初は、阿佐ヶ谷姉妹ファンの間で最も重要な聖地となっている中華料理屋の「朝陽」にしようかと考えたのだが、朝陽はわずかばかりのカウンター席しかなく、3歳の娘をカウンター席に座らせて、ニラ玉定食を食べさせるというのは、かなり難易度が高い。そこで考えたのが、「gion」だったのである。

阿佐ヶ谷姉妹の姉のエリコさんが「人生最高レストラン」という番組の中で、

「gionのナポリタンが美味しくて、エッセイが書けないときにこの店のナポリタンを食べて勢いづけようとしたが、それでも書けなくて失意のうちにアパートに帰ると、ミホさんが私好みの甘いカレーを作ってくれていて、その何気ない気遣いに涙が止まらなかった」

というエピソード披露していた。その意味でここも聖地の一つである。

「gion」に入ると、そこはちょっとこじゃれた、インスタ映えするようなお店だった。

窓際のテーブル席が空いていたので、そこに座ったのだが、当然のことながら、3歳の子どもに合わせた作りにはなっていないこともあり、娘はどうも、座り心地があまりよくないようである。

さっそくナポリタンを注文すると、

「できあがるまで20分程度かかりますが、それでもよろしいでしょうか」

「はぁ、大丈夫です」

ここまで来たのだから、もう引き返すわけにはいかない。

「お待ちの間、ドリンクでもいかがですか?」

「そうですか、じゃあ、バナナジュースをください」

なんとか娘を飽きさせないようにと、バナナジュースで気を紛らわせることにした。

しかし、午前中のプール講習の疲れか、娘の機嫌はだんだん悪くなる。

僕たちの席の両隣には、それぞれふたりの若い女性が、向かい合って座っていて、いろいろと話しながら食事をしている。それぞれ20代くらいだろうか。

僕が気になったのは、僕から向かって左側の席に座っていたふたりの女性。娘から見たら向かって右側の席に座っている女性である。

なにやら、2人のうちの1人が、知ったかぶりの芸術談義をもう1人にしている。もう1人に対して、

「○○の絵についてはどう思うの?」「○○って画家、知ってる?」「○○って映画、見た?」

という「上からの質問」を投げかけまくっていて、もう1人がちょっと困惑しながらもなんとか話を合わせている、という地獄のような光景が広がっている。

「ふだん絵を見る時に、どういうことを感じながら見てる?」

「どういうこと…、うーん…」

困った質問を投げかけられて、もう一人は、

(どう答えたら正解なんだろう?)

と、答えを必死で探り探りした挙げ句、

「やっぱり、きれいだなぁとか、色彩がいいなぁとか、そういうことですかね」

と恐る恐る答えた。

「私なんかの場合はぁ~、ゴッホとかゴーギャンとかが、このキャンバスの目の前に立っていたんだな、とか、画家の死後に画家の家族がこの絵に直接触れたんだな、とか、そういう、描かれた絵の背景を想像しながら見るんですよねぇ」

(知らねぇよ!)

と心の中でツッコんだ。こんな地獄絵図が延々と続くのだ。

2人はどういう関係なのだろう?2人とも年齢はほぼ同じように思えるのだが、お互いちょっと敬語気味で話している。さほど親しいようにも思われないのだが、どういういきさつで、2人でこの店に入って食事をすることになったのだろう?というかこの「マウントをとろうとする側の人」が、どうにもいけ好かないのだ。

阿佐ヶ谷姉妹の「のほほん」な関係とは対照的に、じつに緊張感のある関係である。阿佐ヶ谷で「のほほん」な体験を期待していた僕は、いきなり出鼻をくじかれた。

…と、ナポリタンが来るのを待つ間、そんなことを考えていたら、娘が、その知ったかぶりの芸術談義をしている女性のほうを指さして、

「この人、ずっと喋ってる!どうしてずっと喋ってるの?」

と言うではないか!まるでまわりの大人の本音を「王様は裸だ!」というひと言で明るみに出すような行動である。

「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!しーっ!」

と慌てて娘の口を人差し指で押さえた。

それにしても不思議である。僕たちの両隣には、同じような女性2人組が座っていて、同じように喋っていたのである。娘はよりによって、僕がいけ好かねえと感じていた人を指さして、「この人、いつまで喋ってんの?」と口に出したのだ。子どもの観察眼を侮ってはいけない。

それはともかく。

娘はさすがにナポリタンを完食することはできず、ちょっと不機嫌なまま、お店を出ることになった。

さてそこから今度は、阿佐ヶ谷駅北口アーケード商店街を通り、聖地が並ぶ松山通り商店街を歩く。途中、阿佐ヶ谷姉妹とゆかりのある八幡煎餅でおせんべいを買いながら、めざすゴールは中華料理屋の「朝陽」である。

しかし娘の機嫌はなおらない。おそらくお昼ごはんを食べて眠くなってきたのだろう。それに加えて、おそらく自分が抱いていた阿佐ヶ谷のイメージとは、異なっていたからかもしれない。そりゃそうだ、だって、NHKドラマは名古屋放送局が制作だから、ロケ地の多くは阿佐ヶ谷ではなく、名古屋だったのだ。ドラマで見た「ハイム安澤」も、喫茶店の「いとし」も、中華料理屋の「朝来」も、現実の阿佐ヶ谷には存在しないのだ。しかしそんな説明が、3歳の娘に通じるはずもない。

途中からしきりに、

「ねえねえ、エリコさんとミホさんはどこ?エリコさんとミホさんに会いたい」

と言いだした。

「あのねえ、エリコさんとミホさんは、いま浜松町というところで、ラジオの生放送のお仕事をしているんだよ」

と説き伏せるのだが、あまり納得しない。

なんとかゴールの「朝陽」に到着して、そこからまた松山通り商店街を引き返す。その間、娘はずっとグズっている。

阿佐ヶ谷駅北口アーケード商店街まで戻ったところで、娘のグズりはピークに達した。

「エリコさんとミホさんに会いた~い!うえぇぇぇぇ~ん!」

ついに立ち止まって、顔面が崩れるほど泣き出してしまった。その泣き声は、アーケード商店街中に響き渡った。

おいおい、この商店街の人たちは、いわば阿佐ヶ谷姉妹の関係者なんだぞ!「エリコさんとミホさん」という名前を出したら、「はは~ン、この親子は、阿佐ヶ谷姉妹を目当てに阿佐ヶ谷をさまよい歩いているな」ということが、すぐにバレるじゃないか!!

結局、そのあとに訪れる予定だった、阿佐ヶ谷駅南口のパール商店街にたどり着くことはできず、そのまま阿佐ヶ谷駅から電車に乗って家に戻ったのであった。

娘は、阿佐ヶ谷を気に入ってもらえなかったのだろうか?

家に帰った娘は、録画してあるNHKのドラマを見て、今日の復習をしていた。

おそるおそる「また阿佐ヶ谷行きたい?」

と聞いたら、

「また阿佐ヶ谷に行きた~い」

と答えていたので、こんど阿佐ヶ谷に訪れるときは、プール講習みたいな疲れのたまる予定を事前に入れずに、万全の体調でのぞむことにしよう。

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コメント

よいこのお友達にはあまり知られてないが、鬼瓦さんのズボンが破けなくなったのは、人知れずZ山のお地蔵様に毎年わたくしめがスキー参拝しているからである。

この月曜も、大雪で首しか出ていないお地蔵様に初もうでに行ってきた。

もちろん今年の願掛けは「スヨンちゃんが阿佐ヶ谷姉妹に逢えるように」である。

そのご利益(りやく)がこれ。
https://tver.jp/corner/f0095130

今年のお地蔵様は機嫌がよさそうなので、スヨンパパのズボンも法力でビリビリに破かれちゃうんじゃないかな。

投稿: 🐢⛷🏔 | 2022年1月14日 (金) 14時22分

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