腰掛便器の使い方
以下は、尾籠な話なので、不快に思う人は読まないでください。
僕の家に水洗トイレが導入されたのは、僕が小学校低学年、あるいは中学年くらいのことだったか。それまでは汲み取り式の和式便所だった。
水洗式の洋式トイレを見たときは、衝撃だった。なにしろ使い方がわからない。
映画『男はつらいよ』(1969年公開)には、寅さんが、高級ホテルの洋式トイレに初めて入って、その使い方がわからず、間違った使い方をしたにもかかわらず、それを誇らしげにみんなに語って顰蹙を買った、という場面がある。それくらい、洋式トイレの使い方はわからないとされていたのだ。
いまでもはっきりと覚えているのは、わが家の便所の壁のところに、「腰掛便器の使い方」というシールだったかパネルだったかが貼られていたことである。当時は「洋式トイレ」ともいわず、「腰掛便器」って言われていたんだね。わが家だけではない。当時、「腰掛便器」がある家や施設では軒並み、そのシールやパネルが貼られていた。
そのシールには、「男子小用」「大便及び女子小用」という二つの絵が描いてある。「男子小用」は、男性が立っておしっこをする姿を描いた図で、「大便及び女子小用」は、座って用を足している姿を描いた図である。
「大便及び女子小用」に書いてある説明は、小学生の僕にもなんとなくわかる記述である。
「フタだけを上げ後ろ向きに便座に腰を掛けて使用して下さい」
しかし僕がわからなかったのは、「男子小用」のところに書いてある説明である。
「フタ・便座とも上げて陶器面を出して使用して下さい」
とある。この「陶器面」というのが、小学生の僕には、なんと読むのかがわからない。
図を見ると、便器のうちで「フタ」と「便座」に相当するものは、「これがフタ」「これが便座」とわかるように、矢印を引っ張って丁寧に説明してくれているのだが、「陶器面」については、図のどこにあたる部分なのかが、わからないのである。
(「陶器面を出して使用して下さい」とあるが、何を出して使用するのだろう?)
考えたあげく、一つの結論に達した。「陶器面」というのは、「お○ん○ん」のことではないだろうか???
そう考えるとつじつまが合う。たしかに「男子小用」つまり男子がおしっこをするときは、ズボンから「お○ん○ん」を出して、用を足すのである。
いったんそれを思いつくと、もうそうとしか考えられなくなる。「陶器面」は「お○ん○ん」なのだ!!!
それからというもの僕は、「お○ん○ん」の正式名称は「陶器面」であると信じて疑わなくなったのである。
のちに「陶器面」の漢字が読めるようになり、その意味がなんとなくわかって以降も、「陶器面」=「お○ん○ん」という思い込みは変わらなかった。今度は、「お○ん○ん」がなぜ「陶器面」と呼ばれるようになったのか、その理由を必死に考えようとした。なぜ陶器なんだろう?と。
「陶器面」の本当の意味がわかったのは、それからしばらく経ってからのことである。
…なぜこんなことを思い出したのかというと、今日、お腹が痛くなってあるお店のトイレに駆け込んだとき、トイレのドアの内側のところに張り紙が貼ってあって、
「男子小用の場合も座って使用して下さい」
みたいな注意書きがあったからである。
もちろん僕も、いまの家に引っ越してからは、家のトイレで小用を足すときは、座ってするようになったので、その貼り紙自体には違和感はなかった。むしろそうするべきだろうと、僕も思う。
しかし、かつて「腰掛便器」と呼ばれていた時代に、「男性は、腰掛便器であっても、立って用を足すものだ」という使用法が、広く啓発されたいた事実も、記憶にとどめておかなければならない。それが正しいと信じて普及していた常識も、時代がたち、科学が発達すると、その常識が通用しなくなることは、「ウサギ跳び」の例を出すまでもなく、ざらにあることだ。
この国の男性の全員が、家の洋式トイレで、あたりまえのように座っておしっこをする時代が来るのは、いつのことだろう。
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