思索の人
1月6日(木)のNHKラジオ第一放送「東京03の好きにさせるかッ」のゲストは、シティボーイズの斉木しげるさんだった。
同じ事務所の後輩であるラブレターズ塚本氏のコント台本は、おそらく斉木さんに対する日常的な観察から生まれたもので、斉木さんの変幻自在ぶりをあますところなく発揮させていた。72歳になりだいぶ衰えたと本人は言うが、あの緩急をつけた「ヘンな芝居」は、僕が20代の頃に、グローブ座や日比谷の野音で見たときと変わらない。
コントも堪能したが、その後の東京03とのフリートークの方もなかなかよかった。
とりわけ印象深かったのは、若い頃は(シティボーイズのメンバーの)短所ばかりが気になったが、40歳を過ぎたあたりからお互いの短所を気にせず、お互いの長所を伸ばす方に力を入れるようになった、という話。
それに対して東京03の飯塚氏は、「僕は48歳になっても、短所の方が気になる。長所の方は頭打ちになってしまって、これ以上伸びないと思っているから、どうしても短所を克服しようとする方向に行ってしまう」という。
すると斉木さんは、「短所は捨ててしまえばいい」。飯塚「でも、長所は頭打ちなんですよ」。斉木「方向性を変えてやればいいんですよ。いま思っている長所がすべてとは限らない。自分が知らない長所を、他人が知っているかも知れない。だから、自分があたりまえと思っている自分の嗜好や経験をどんどん話せばいいんです」。そうすれば、自分でも気がつかなかった長所が発見できる、というわけである。
そこから斉木さんはおもむろに子どもの頃の体験を話し始める。子どもの頃、田舎道を歩きながら、道ばたの雑草を竹の刀みたいなものを振りまわしてちぎったりしていたのだが、あるときふと、「雑草だって生きているんだ。こんなことをしてはいけない」と気づき、それ以来、一切雑草を慈悲なくちぎることをスッパリとやめたという。
それが自分の長所とどうつながるのか、なんとも謎なエピソードで、司会の飯塚氏もリアクションに戸惑っていたが、そういえば斉木さんは、シティボーイズのコントの中でしばしば、「いちごの気持ちになって考える」とか、そういうヘンな目線で語り始めることがあったのだが、それはそのときの体験があったからか、と、僕はヘンに納得してしまった。
斉木さんは自分のことを「妄想癖が誰よりも強い」というが、むしろ「思索の人」というべきだろう。
20代の頃に見たシティボーイズのコントライブは、その演出や形式をあたりまえのものとして見ていたが、いまふり返ると、それまでにない新境地をひらいたコントライブで、その後のコント師たちに大きな影響を与えていたことに気づく。いまどんなにあたりまえになっていることも、もとをたどれば誰かが始めたことである。僕はその瞬間に立ち会っていたのだ。
大竹まこと氏が語る、風間杜夫氏とのエピソードが好きである。売れない頃、同じ部屋で大竹、風間、斉木の3人で暮らしていたが、あるとき、風間がつかこうへいに見いだされ、演劇の世界で一躍有名になる。そして映画『蒲田行進曲』で主役の座を射止める。そのあたりのことを、『俺たちはどう生きるか』(集英社新書、2019年)で書いている。
「風間の『蒲田行進曲』を三人(注:大竹、きたろう、斉木)で観たことがある。
たぶん、すごく面白かったのだろう。私たちは打ちのめされて、一言も口をきかずに映画館を後にした」(13頁)
かくして大竹、きたろう、斉木は、風間杜夫「じゃない」3人となり、演劇の世界で挫折を味わうことになる。
コントの世界に身を移した3人は、それまで誰もやらなかった単独ライブを成功させ、後にあたりまえとなるコントライブの「型」をつくりあげる開拓者となるのである。
こうして別々の道を歩んだ「風間」と「じゃない3人」だったが、ずいぶん時間が経ってから、風間杜夫とかつての関係を取り戻す。
「いま、風間とは、昔の時間を取り戻すようによく会っているし、麻雀も楽しい。先日は焼肉を食べた。風間の奴、七〇にもなってキムチにマヨネーズをかけていた。私は思わず吹き出してしまった」(12頁)
長い時間をかけて、若い頃の伏線が回収される。人生とは、なんとつじつまの合う物語だろう。
「短所を捨てて、長所を伸ばす。長所が頭打ちになったら、方向性を変えればいい」という斉木さんの言葉は、この経験に裏打ちされたものではないだろうか。数十年かけてたどり着いた境地なのだ。
やはり斉木しげるは、とぼけているようにみえて、「思索の人」である。
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