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ばいきんまんは悪者なのか

「ねえねえ、ママに内緒で、ママのiPadで、アンパンマンの動画、観た~い。どうやって観るの?やって」

と、ママにiPadの操作をお願いする3歳9か月の娘。あんた、「内緒で」の意味、わかってんの?

というわけで、相変わらず娘は、アンパンマンのアニメの本編ではなく、アンパンマンの人形遊びをする謎の動画にハマっている。おもちゃの販促動画なのか?

アンパンマンのお人形遊びをする動画は、動画制作者が勝手にストーリーを作っているもので、アニメ本編とは世界観がまるで違う。「ウルトラファイト」のようなものである、ということは以前に書いた

動画を見続けていた娘は、

「ばいきんまんがかわいそう。ばいきんまんは悪くない。悪いのは周りの人」

とつぶやいた。

僕も、娘につきあって、何度かその動画を観たのだが、たしかにばいきんまんは、その動画の中では何も悪いことをしていないのに、周りのドキンちゃんとかアンパンマンとかから意地悪されたり、理不尽な仕打ちを受けたりする。冷静に考えると、これはいじめである。

実はアニメの本編をちゃんと見たことがないので、アニメの中でばいきんまんがどのように描かれているのかわからないのだが、少なくともその人形遊びの動画の中では、身に覚えのない仕打ちを受けたりしているのである。

なんとなく、ばいきんまんは悪者、という認識がすり込まれている僕からしたら、最初はありがちな勧善懲悪の動画なのかなと思ってみていたのだが、よくよく考えてみると、ばいきんまんには「悪」の要素がないのである。

予備知識なく観ている娘からしたら、そこに違和感を抱いたのだろう。

世の中に本当の悪人がいるのか、ということを、最近よく考える。

ちょうど、水道橋博士と町山智浩さんが対談している動画(「博士の異常な対談」)を観ていたら、大島新監督のドキュメンタリー映画「香川1区」を取り上げていた。ちなみに僕は、前作の「なぜ君は総理大臣になれないのか」と今作の「香川1区」の両方とも、まだ観ていない。

水道橋博士が「香川1区」を「スターウォーズ」になぞらえ、与党の平井デジタル大臣をダースベーダーにたとえたことに対し、町山さんが猛然と反論する。なぜ大島監督は、平井デジタル大臣のことを、もっと(相手の懐に入って)ちゃんと取材しなかったのか、今度の映画でやるべきことは、それだったのではないか、と。

町山さんの語りは次第に熱を帯びてゆく。「この世に本当の悪人など存在しない。あるのは、「間抜け」とか「バカ」とか「傲慢」とか「ズルさ」とか「うっかり」とか、そういう人なのだ。何代も続く地元の名家に生まれた平井デジタル担当大臣にも、苦しみや悲しみがあるはずだ。そうした人間のほころびの部分を撮ることこそが映画だ」、と。たとえば佐々木守脚本の「ウルトラマン」でも、怪獣の側の悲哀をちゃんと描いていたじゃないか、もちろん、近年公開されたアメリカ映画「ジョーカー」もしかりである、と。

ほんの何年か前まで僕は、自分が許せない人間のことを悪いやつだと思い込んでいた。そういう人は徹底的に糾弾すべきである、と。

もちろん、声を上げることは重要で、そうしないと世の中は変わっていかないのだが、悪い奴をとっちめることを目的にすることが、はたしてよりよい世の中になることを意味するのか、いまの僕にはわからない。

ただ、その人がやっていることが「間抜け」で「バカ」で「傲慢」で「ズル」くて「うっかり」なものであることは、可視化しなければならないと思う。それが、どうすれば世の中がよくなるかを考えるための「のりしろ」である。その意味で僕は、町山さんの言葉に溜飲が下がったのである。

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コメント

帰ってきたおとうさんはウルトラマン
剣淵絵本の里大賞受賞作です。スヨンちゃんにどうぞ。

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投稿: (o|o)🐢 | 2022年1月13日 (木) 02時23分

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