ひまわり
2月28日(月)
車で1時間以上かかる病院へ、定期の診察である。
診察、といっても、1か月以上前に行った別の病院での治療の結果を、ただ報告するだけである。しかも報告といっても、すでに治療の結果は画像データと文書で主治医に報告されているため、わざわざ僕が行って報告する必要はないのである。
1時間以上かけて病院に行き、何時間も待たされてあげく、ほんの2分程度で問診が終わる、というのは、いつも割に合わない。それだけで体力を消耗する。まったく、桂文珍師匠の小噺ではないが、病院に通うためには、そのための体力が必要である。
しかし、まったく無意味かというと、そうでもない。主治医の先生は、治療の結果の画像を見て、「前回、ちょっと心配だったところが、だいぶよくなっていますね」と、大事に至らなかったことを教えてくれた。まあそれだけでも安心である。
ようやく診察が終わり、車で自宅に引き返す。折しも、「大竹まこと ゴールデンラジオ」が始まる時間だったので、運転をしながら久しぶりにリアタイで聴くことにした。
月曜日のオープニングトークのドあたまは、いつも阿佐ヶ谷姉妹の美しいアカペラコーラスから始まるのだが、今日はそれがなく、いきなり「姉のエリコです、妹のミホです、阿佐ヶ谷姉妹です」という挨拶から始まっている。
おかしいな、と思っていると、おもむろに大竹まことが、
「今日はこの曲から聴いていただきましょう」
と、いきなり曲が流れた。オープニングトークでは、あまりないパターンである。
流れた曲は、映画「ひまわり」のテーマ曲だった。
大竹まことは、この曲をかけた意味を何も語らず、冒頭からいきなりこの悲しいテーマ曲が流れたので、曲が流れている間中、僕は「そのココロは?」と自問自答していた。
曲が最後まで終わったあと、大竹まことは静かに、この映画のストーリーについて語った。1970年公開のこの映画は、イタリアを代表する俳優、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンによる、第二次世界大戦に翻弄された男女の物語である。
映画で最も印象的な場面は、ソフィア・ローレンが、戦争で行方不明となった夫(マルチェロ・マストロヤンニ)を探しに、ソ連に赴いたとき、そこに地平線まで続くひまわり畑が広がっている光景である。僕もむかしこの映画を見たときに、ストーリーの細部は忘れてしまったが、この場面だけは強い印象に残った。
「あのひまわり畑の撮影地は、ウクライナだったのです」
という大竹まことの言葉に、この曲をかけた真の意味を、ようやく理解した。
「この『ひまわり』は、以前、長野県の医師である鎌田實さん(「大竹まこと ゴールデンラジオ」でしばしばゲストとして登場する)の呼びかけで、坂田明さんも演奏されています」
僕は、10年前ほど前の記憶がよみがえった。坂田明の演奏する「ひまわり」を、である。
友人のKさんに教えてもらい、僕が最初に聴いたのは、東日本大震災のあとだった。もともと、チェルノブイリの原発事故等で病気になった子どもたちを救うためのチャリティーとして企画されたアルバムだった。
いまはまた、違う文脈で「ひまわり」が大きな意味を持つことになるとは、誰が想像しただろう。
坂田明といえば、大林宣彦監督の映画「この空の花 長岡花火物語」(2012年)で、戦争で片腕を亡くしたアルトサックス奏者の役を演じていた。長岡の花火の映像と相まって、映画の終盤に流れる坂田明の魂の叫びともとれるアルトサックスの音色は、あの「ひまわり」のアルバムに込められた思いにも通じている。
大林監督と坂田明とのつながりは、ともに広島県出身であるということである。「この空の花」のメイキング映像に、大林監督のディレクションのもとで、坂田明がアルトサックスを演奏するシーンが残っているが、僕にとって貴重な映像である。
久しぶりに聴き直してみよう。
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