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ホームズVSコロンボ

2月15日(火)

火曜日は会議日だが、とくに第3火曜日は終日会議である。今日は会議が終わると、面倒な書類づくりに追われて、職場を出たのは夜9時頃だった。

帰宅してから、NHK-BSPで再放送されているドラマ「シャーロックホームズの冒険」を観た。先日録画しておいた「ウィステリア荘」というエピソードである。

ドラマの途中、非常に切れ者のベインズ警部という刑事が登場し、ホームズと、ちょっとした謎解き合戦をする。細かな痕跡から事件を推理し、その後の事件の展開を先の先まで読むその姿勢に、最初は訝しんでいたホームズも、最後には喝采を送るほどである。

吹き替えの声を聞いて、一瞬、小池朝雄か?と思ったが、よくよく聞いてみると、ちょっと違う。名古屋章だ!

しかし声といい節回しといい、まったくもってコロンボである。台詞がコロンボ的なのは、このドラマの翻訳が額田やえ子なので当然だが、それに加えて、愚鈍そうに見えるベインズ警部が実は切れ者だという設定も、コロンボを彷彿とさせる。

翻訳が額田やえ子といい、ベインズ警部の人となりといい、日本語版では絶対にコロンボを意識しているぞ!おそらく、名古屋章をキャスティングしたのは、それを狙っていたのだろう。小池朝雄本人だと、もろコロンボになってしまうからもちろんNGで、その雰囲気を感じさせるためにわざと名古屋章に声を当てさせたのだろう。台詞回しの様子から、名古屋章も、それをわかって、楽しんで演じているように思える。

名古屋章と小池朝雄の関係を調べてみると、名古屋章は1930年生まれ。小池朝雄は1931年の早生まれで、二人は同学年なんだね。しかもともに文学座に入り、1963年の文学座分裂騒動のときには、二人揃って脱退して、劇団雲の創立に参加している。ちなみに文学座には、小池朝雄のほうが名古屋章よりも早く入団しているようだ。

そして、これもはじめて知ったのだが、ピーター・フォークが大泥棒を演じた「ブリンクス」というドラマでは、小池朝雄がフジテレビ版の吹き替えを、名古屋章がテレビ朝日版の吹き替えを担当している。こうなるともう、双子みたいなものである。

小池朝雄のコロンボはまさに当たり役で、当時の劇団出身の俳優たちの羨望の的だったに違いない。いつだったか、テレビで江守徹が「コロンボの声なら俺の方が上手い」とか何とか言って、小池朝雄の声マネをしていた。ちなみに「新刑事コロンボ」のコロンボ役だった石田太郎は、小池朝雄の劇団雲・劇団昴の後輩にあたり、宴会などの余興で小池朝雄のものまねを本人の前でしていたという。さらに言うと、江守徹と石田太郎は同じ年(1944年)に生まれている。

おそらく名古屋章も、俳優仲間として間近に接していた小池朝雄の声マネを、日頃からしていたのではないだろうか。ベインズ警部の声からは、その遊び心がうかがえるのである。

むかしは声優という独立した職業がなかったので俳優が声優をつとめたのだ、ということはよく言われていることだが、とくに劇団出身の俳優は、それだけでは食えなかっただろうから、声優の仕事も重要な収入源だったのかもしれない。しかしそれが、「声」に対する独特の価値観を生み、ラジオに進出していくのである。近石真介しかり、若山弦蔵しかり、愛川欽也しかり、である。

もうそんな時代は、とっくに終わってしまったのだろうか。

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