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便利なひな壇芸人

3月5日(土)

朝、寝間着のまんま寝っ転がっていたら、電話がかかってきた。

「もしもし、鬼瓦先生ですか?」

「はい、鬼瓦です」

「私、○○出版社の××と申しますけれど…いま、オンライン会議を行っているんですが…」

「あっ!!すみません!!」

すっかり忘れていた。今日は午前10時から某出版社の「企画もの」に関する執筆者会議だった!手帳には書いておいたのだが、書いたこと自体を忘れていた。

「す、すぐ参加します!」

時計を見ると10時半。慌てて着替えて、ノートパソコンを立ち上げて、ZoomのミーティングIDとパスコードを入力して、会議に合流できたのは10時45分過ぎだった。

会議次第を見ると、執筆者の顔合わせという意味もあり、僕もひと言喋らないといけないようなのだが、どうやらそれには間に合ったらしい。

僕は何事もなかったかのように、挨拶をした。

他の人は、力のこもった挨拶だったのだが、僕は、どうもあまり乗り気ではなかった。「また企画ものかよ!」とウンザリしていたのである。

僕は、自分とは縁遠い企画だと思って、どうしようかと思っていたが、依頼をした人に恩義があるので、観念して引き受けることにしました、と、まことにやる気のない挨拶をしてしまった。いまから思うと、たいへん失礼な挨拶だったと思い、反省した。しかし実際、やる気がないのだから仕方がない。

その後、もう1回、コメントを言う機会があったので、先ほどの挨拶を反省し、さも準備してきたかのように執筆の具体的な構想を語った。何も考えていないのに、さも考えてきたように喋るヘンな術ばかりが身についている。

通常、こうした企画ものは、いきなり企画書が送られてきて、はがきかメールで諾否を表明し、締め切りまでに原稿を出す、という流れが多い。つまり、担当の編集者とは一度も顔を合わせずに原稿を執筆する、という慣習が常態化している。

だが、むかしからある大手の出版社は、依頼にあたって、担当編集者と直接に顔を合わせることがある。今回の出版社とは、以前に一度、やはり企画もので仕事をしたことがあるが、そのときは、執筆者が大人数だったので、どこかの会場を借りて、執筆者打合せと称して立食パーティーをした記憶がある。いまは出版界の低迷と新型コロナウイルスの影響で、さすがに立食パーティーはできないが、それでも、執筆者が顔合わせをするという伝統は、変わりないようだ。

どっちがいいのかは、わからない。いきなり企画書だけ送られてきて、担当編集者と一回も会わずに原稿を出すというのも癪に障るが、わざわざ各巻の執筆者が顔合わせをするというのも、なかなか面倒くさい。僕はこんなふうに、これから先も、企画ものに職業的文章を書く「便利なひな壇芸人」として、この仕事を続けていくのだろうか。

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