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迷子さがし顔

3月27日(日)

娘は昨日、4歳になったが、妻はあいにく出張中である。

昨日に引き続き、実家近くの「もり公園 にじ色広場」に連れて行った。これで3回目だが、すっかりお気に入りの様子である。

実際行ってみると、敷地は広いし、遊具もかなり充実しているので、娘がこの公園を気に入る気持ちがよくわかる。というよりも、そもそもこの公園は、子どもの気持ちをかなりわしづかみしているようで、この土日はかなりの人数の家族連れが訪れている。

ひとしきり遊んで、こっちも疲れてきたので、サア帰ろうかと娘に促したところ、もう少し遊んでいたそうな顔をしていたが、出口に向かって渋々歩き出した。

すると、声をかけられた。誰かのお子さんの母親のようである。

「あのう、この近くで、女の子を見かけませんでしたか?」

女の子、といわれても、この公園にはかなりの数の子どもがいる。

「ちょっと目を離している隙にはぐれてしまいまして…。フード付き紺色のパーカーを着ているのですが…」

フード付きの紺色のパーカー、という情報も、かなりアバウトである。

「さぁ…」

「もし見かけたら、公園を出たところの管理室までご連絡いただけますか?」

「わかりました」

そう言うと、その女性は僕たちと正反対の方向、つまり公園の中のほうに入っていった。おそらくさがしまわるのだろう。その様子は、切羽詰まった様子に見えた。

しかし、いまこの公園にいる人数をざっと見積もってみても、200~300人ほどはいるはずである。そんななかで、紺色のフード付きパーカーを着た女の子という情報だけを頼りに探すのは、至難の業である。

「パパ、どうしたの?」

と娘が聞いた。

「女の子が迷子になっちゃったみたいで、おかあさんが必死にさがしているみたいだよ」

「それでパパに聞いてきたの?」

「そう」

「どんな子?」

「紺色のフード付きのパーカーを着ている女の子だって」

と説明して、4歳の娘にどれだけ伝わっているかはわからない。

「その子、さがす」

と言いだした。

「こんなに人がいるのに、さがせないよ」

「でも、心配だから、さがす」

といって聞かない。娘は周りを見渡して、

「あの人がそうじゃないかな?」

と手当たり次第に指をさすのだが、いずれも服装が違う。

「そう簡単には見つからないよ。だってこんなにたくさん人がいるんだよ」

と思って歩いていたら、なんという偶然か、前方に紺色のフード付きパーカーを着た女の子が歩いていた!

(あの子がそうか?)

その女の子の右隣には、大柄な女性がいて、女の子と手をつないでいる。

後ろ姿しかわからないが、女の子の手を引いている大柄な女性は、紺色のウィンドブレーカーを着ている。女の子の方は、とくにイヤがっている様子ではないのだが、手のつなぎ方が不自然で、直感だが、その女の子の母親のようには見えないのである。

(ひょっとして…ゆ、ゆうかい…?)

僕はそれとなく、娘の手を引きながらその二人のあとを尾行した。

すると、その二人は、トイレのあるとおぼしき建物の中に入っていった。

(トイレに入ったのか?)

ここでまたイヤな予感がした。最悪の事態を想像してしまった。

声をかけるべきかどうか?

いや、そもそもその女の子が、迷子になった子であるかどうかも確信がない。なにしろ紺のフード付きのパーカーを着ているという情報だけである。下手に声をかけると、僕の方が何か巻き込まれる可能性もある。

(見なかったことにしよう)僕は怖くなって、引き返すことにした。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」

「ねえ、その女の子をさがそうよ。もういちど公園に戻ろうよ」

娘はどうやら、その女の子をさがすことを口実に、公園でまだ遊んでいたいようである。

「でもわからないよ。もう見つかったかもしれないし」

「でもさがした~い」

僕も、あの不思議な二人のことを忘れたいと思い、踵を返して公園の中に戻った。

キョロキョロと周囲を見渡しながら、該当する女の子はいないかさがしてみるのだが、それらしい女の子は見当たらない。

それに、そのお母さんとおぼしき人も、どこにいるのかわからなくなってしまった。

「ブランコに乗りた~い」

公園の奥の方にあるブランコは、ちょっとした工夫が凝らしてあって、行列ができるほどの人気スポットである。

そこに並んでいると、どこからともなく、先ほどのお母さんとおぼしき人がやってきた。

見ると、その女性は、先ほど謎の女性に手を引かれていた女の子と手をつないでいた。

「さきほどはすみませんでした。おかげさまで、見つかりました」

「そうでしたか、それはよかった」

やはりあの女の子が、迷子になった女の子だったのだ。

では、僕が見た謎の女性は誰だったのか?

ウィンドブレーカーを来ていたことからすると、公園のスタッフであった可能性が高い。迷子になった女の子の手を引いて、管理室のある建物まで連れて行って、お母さんに連絡を取ったものと思われる。二人は、トイレに入ったのではなく、管理室に入っていったのだ。

これで一件落着、最悪の事態にならなくてよかった、と胸をなで下ろしていたら、娘が言った。

「ねえねえ」

「何?」

「あのおかあさん、どうしたパパばっかりに、迷子をさがしてくれって言ったの?」

「……」

言われてみればそうだ。その母親とおぼしき人は、手当たり次第に人に聞いていたわけではなかった。なぜか僕にだけ聞いてきたのである。

「ねえ、どうして?」

「さあ、どうしてだろうね。迷子を捜す仕事の人だと思ったんじゃないかなあ」

「どうして、あの人はそう思ったの?ねえ、どうして?」

「わからないよ」

娘のいつもの「どうして?」攻撃が始まった。

しかし不思議である。

ブランコに並んでいると、その母親とおぼしき人が僕の姿を見つけて、わざわざ「見つかりました」と報告してきたのだ。僕は、その母親とおぼしき人の顔をとっくに忘れてしまったのに、その人は、たまたま通りすがりに尋ねたにすぎない僕の顔を覚えているというのも不思議だった。

ブランコを終え、その親子のことが気になり、あたりを目を凝らしてさがしてみたが、すでにもう、その親子を見つけることはできなかった。

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