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『荻窪風土記』

4月26日(火)

3ヵ月にいちどの「ひとり合宿」の楽しみは、本を読むことである。いわば監禁状態になるので、事前に読む本を準備しなければならない。その吟味の過程もまた楽しい。

昨日は、高校時代の1学年下の後輩が書いた新作の小説を読んだ。あいかわらずおもしろくて、一気に読んでしまった。

今日は、井伏鱒二の『荻窪風土記』(新潮文庫)を読んでいる。

先日、中央線沿線に住む友人から、『中央線小説傑作選』(中公文庫)が出ていると教えられた。中央線小説と聞いたら、僕も黙ってはいられない。読んでみるとこれがなかなかにおもしろかった。それだけでなく、「もし自分が中央線沿線を舞台にした小説をアンソロジーにしたら、どんな本を選ぶだろうか」と想像しながら読んだので、なおさら楽しかった。

僕は大学生の頃、ヒマでヒマで仕方がなくて、中央線沿線の古本屋を、まるで聞き込みデカのように、1軒1軒しらみつぶしに歩いたことがある。

僕にとっての中央線沿線のイメージというのは、中野あたりから立川あたりまでの、いわゆる直線区間の部分である。

そんな思い出もあり、中央線沿線には、ひどく思い入れがあるのである。

さて、「ひとり合宿」のときに、どんな本をもっていこうかと、ふと頭に浮かんだのは、冒頭に述べた井伏鱒二の『荻窪風土記』だったのである。

先に読んだ『中央線小説傑作選』の中には、当然、中央線にゆかりのある井伏鱒二の作品も収録されている。「阿佐ヶ谷会」という、たった2頁ほどの短編なのだが、その文体が妙に印象に残ったのである。これで決まり、と、さっそく『荻窪風土記』の文庫本を入手した。

そうしたところ、『中央線小説傑作選』を薦めてくれた友人から、

「明日から『ひとり合宿』ですね。もしまだなら、井伏鱒二の『荻窪風土記』なんてお供にどうですか。いい本です」
とメールをもらい、その偶然に驚いた。

そういえば、井伏鱒二の『荻窪風土記』は、ずっとむかしに、読もうと思って読まなかったんだよなあ、でも書名はなぜかずっと覚えていて、しかも文庫ではなく、ハードカバーの本として、僕の脳内に画像が記憶されている。

ハタと思い出した。

『荻窪風土記』は、高校時代の親友・元福岡のコバヤシが、高校時代に、僕に勧めてくれた本だったんじゃなかったっけ?たしかコバヤシは、井伏鱒二のファンだったはずだ。だがそのとき僕はピンとこずに、薦められても読まなかったのだ。

しかしその記憶は、僕の勘違いという可能性もある。そこでコバヤシに、確認することにした。

「コバヤシ殿、貴兄は高校の頃、井伏鱒二の本を私に薦めてきませんでしたか?『荻窪風土記』の存在は、貴兄から聞いた記憶があるのですが、記憶違いでしょうか」

するとほどなくして、コバヤシから返事が来た。

「本題の井伏鱒二の「荻窪風土記」の件ですが、多分、私が薦めたのだと思います。

たまたま手元に、昔、実際に読んだ新潮社のハードカバーの本が有り、その本の後ろの頁を開くと、昭和59年5月5日15刷と有りますから、恐らく高校1年の時に読んで貴君に薦めたのでしょう。(ちなみに初版は昭和57年11月5日とあります。)井伏鱒二は釣り好きで、私も子供のころ釣りが好きだったので、確か家にあった「川釣り」という当時は岩波新書(今は岩波文庫のはず)で出ていた本を読み、釣りの話もさることながら、その飄々とした筆致と抒情的な表現に魅かれて井伏鱒二を認識したのだと思います。

有名な「山椒魚」なども読んだような気もしますが、こちらはあまり好きではなかったように思います。

ちなみに井伏鱒二は、戦前(だったと思う)の流行作家であった釣り名人の佐藤垢石に釣りの手ほどきを受けました。井伏は、この師匠、佐藤垢石を主人公にした「釣人」という本も書いていたのですが、確かずっと絶版のままで、残念ながらまだ読むことが出来ていません。

ついでですが、学生時代に読んで今また読みたいなあと思っているのは、幸田露伴と中勘助です。

幸田露伴は、五重塔で有名ですが、それ以外にも大昔の中国の話に題材を取ったものや、やはり釣り好きでもあり、何しろ古今東西のあらゆる本を読んだ博覧強記ぶりを示す内容は、凄いの一言です。

去年読んだ講談社学芸文庫の「珍せん会」(せん の字が変換出来ず)も面白かったですし、昔読んだ「幻談・観画談」なども、また読みたいなあと思っています。

中勘助は、有名な「銀の匙」は置いておいて、やはり、その静謐な文体が魅力的な小説や物語、とりわけ学生時代に読み、静かで澄んだ空気が流れているような文章に魅かれた「島守」などが思い出されます。

ちなみに中勘助は、その文章とは裏腹に私生活は愛人問題やら何やらでドロドロの酷い人だったと読んだように思います。確か「島守」も愛人問題のもつれで謹慎中の生活を書いたものだったはずです。

静謐で思い出しましたが、前にも勧めたように思いますが、須賀敦子は是非、読んで欲しいものです。

硬質で美しく、そして優しいその文体と文章は、何を読んでも本当に素晴らしいです。

白水社のUブックスから出ている一連の作品、どれでも構わないのでご一読のほどを。

と、井伏鱒二の話を書くつもりが長々と書いてしまい申し訳ありません。

でも、ほんの少しでも何かひっかかる本があれば幸いです。」

やはりそうだった。『荻窪風土記』は、コバヤシが僕に薦めたものだった。僕が、その本をハードカバーの本として記憶に残っているのは、コバヤシから見せてもらったか何かしたのだろう。

それにしても、文学に対するコバヤシの目利きはあいかわらずすばらしい。僕はこの年になって、ようやくコバヤシの感性に近づいた。思い返せば高校生のとき、コバヤシからはいろいろな小説を薦められていたのだ。

『荻窪風土記』の内容について、少しふれようと思ったが、長くなったのでまた別の機会に。

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