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リユニオン活動

僕が愛聴しているTBSラジオ「アシタノカレッジ金曜日」と文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」の両方にゲストとして出演した人が、エッセイストの酒井順子さんである。巷では「サカジュン」と呼ぶらしい。

僕は酒井順子さんの名前になじみがなかったのだが、むかし、『負け犬の遠吠え』という本が話題になって、その作者が酒井順子さんだと知った。『負け犬の遠吠え』は読んだことがないが、タイトルだけは知っていると言うくらいだから、当時、そうとう話題になったということだろう。

ふたつのラジオ番組で告知していたのは、酒井さんの『うまれることば、しぬことば』という本で、言葉を生業にしている人にとっては、じつに興味深そうな本である。

ところで、いま言葉を生業にしている人間が、最も気になる言葉とは、何だろう?と考えると、

「させていただく」

という言葉ではないだろうか。

もっともこれは、酒井さんの著作ではなく、『させていただくの語用論』(ひつじ書房)を書いた椎名美智さんが専門とする。武田砂鉄氏も、この「させていただく」に注目している。

「それでは、会議を始めさせていただきます」

というのは、いまや職場で日常茶飯事の言葉となるのだが、僕はこの「させていただく」がどうにも苦手である。

僕もつい、使ってしまうことがあるが、なるべく使わないようにしようと努力している。他人様が2回に1回、この言葉を使うとすれば、僕はせいぜい5回に1回くらいにとどめようと思いながら、「させていただく」という言い方を控えている。

ところが最近、この4月から始まった朝のラジオ番組を聴いていたら、メインパーソナリティーが、

「それでは、番組を始めさせていただきます」

と言っていて、たちまち聴く気が失せた。メインパーソナリティーだけでなく、パートナーも同じような頻度でこの言葉を使っていて、言葉を生業にするのだったら、もう少し表現を意識してほしいなあとつい文句が出るのは、僕自身が年をとった証拠である。

いや、今回書きたいのは「させていただく」についてではない。「サカジュン」さんの本についてである。

何気なく使っている言葉を突き詰めてみると、いろいろな問題が見えてくる。「J」時代の終焉、「○活」の功罪、「卒業」からの卒業、「自分らしく生きること」が格差社会を後押しする、「気づいた」から「気づきをもらった」へ、なぜコロナと「戦う」のか、スポーツ選手のインタビューにおける話法、など、いわば言葉の「あるあるネタ」である。この本で取り上げている表現は、「させていただく」と同様、なるべくなら使いたくないと思う言葉のオンパレードだ。

で、サカジュンさんの本に興味を持ち、『ガラスの50代』も読んでみたのだが、これは、アラフィフの必読書である。

わかるー、と思ったのが、次のくだり。

「SNSが流行り始めた頃、私は四十代前半。今一つわけがわかっていなかったけれどフェイスブックというものに登録してみたのは、四十五歳の頃でした。それはちょうど、人の「懐かしみたい欲求」が急激に上昇して行くお年頃です。(中略)

そんな中年達にとってSNSは、渡りに船的な道具となりました。昔の仲間達と次々につながり、

『久しぶりに集まりました!』

と、楽しげな画像をアップするという現象がそこここで。(中略)

もちろん私も、例外ではありません。SNS上で、昔の知り合いと次々につながっていくと、青春再来的なわくわく感を覚えたもの。リユニオン的な集まりも、頻繁に開かれるようになりました。(中略)

しかし最初の感動は、次第に薄れていきます。(中略)久しぶりの再会時には懐かしくていろいろな話が弾んだものの、二回目には話すネタも尽き、「ま、こんなものだよね」という感じに。長年会わずにいたのにはそれなりの理由があったのだ、ということがわかるのでした。

私がこのように感じるということは、向こうも同じことを感じていたということでしょう。フェイスブックが広まった頃は盛んに行われたリユニオン活動も、かくして次第に沈静化していったのです」

この文章を読んで、僕のまわりで起こっていたいくつもの不思議な現象が、腑に落ちたのである。

若い子たち(「若い子」の定義は人それぞれだが)は、フェイスブックをあまりやらず、むしろ熱心なのは、アラフィフ以上のほうだったりするのが、前から不思議だった。何でそんな熱心なんだ?と疑問に思っていたが、あれは、中年達にとって、昔の仲間とつながることができる、格好の遊び道具だったからなんだな。

数年前、フェイスブック上で高校時代の同級生たちに声をかけられて、グループLINEに参加させられたのだが、僕以外のメンバーはお互いに親しかった連中ばかりで、当然、久しぶりに再会して飲みに行こうと、えらく盛り上がった。

僕はまったく行かなかったのだが、数ヶ月に一度ていど、仲のいい人たちが集まり、それこそ『久しぶりに集まりました!』と、楽しげな画像をアップしたり、次の集まりの日程調整のLINEが来たりと、最初のうちは盛り上がっていた。ところがいまは、パタッと音沙汰がなくなった。もちろん、新型コロナウイルスのまん延の影響が当然あるだろうし、僕がそのグループLINEから知らない間にはずされている可能性もある。それにしても、みんながみんな、ふだんの近況報告ひとつよこさなくなったというのは、あまりに極端ではないか。

なるほど、サカジュンさんの言う「リユニオン活動が沈静化する」というのは、こういうことを言うのだなと、溜飲が下がる思いがしたのである。

こういうことを冷静に分析できて、わかりやすく書ける人になりたい、という意味でも、この本はアラフィフにとって読むべき本なのである。

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コメント

昨日からオンライン授業を受けさせて頂いている。

何かの比喩ではない。

今日も夕方まで、「論文の書き方」について本寸法の授業をパソコンの前で受けさせて頂かないといけない。

これが、別に教室にいるわけでもないのに、内職が一切できないのである。

ラジオの「ながら聞き」と違って、何か自分の文章を内職して打とうとすると、それで頭がいっぱいになって、先生の話を聞き飛ばしてしまう。

それにレジュメに書いてないパワポ画面が出たら、タブレットのカメラで「画撮」させて頂かなくちゃいけない。

せわしいこと、この上ない。

一番よくないのが、言葉を書き留めたらそのまま文章になりそうな、超論理的すぎる先生の喋り口。

これが眠気を誘う。

音声切ろうかな。

眠気ざましに、この先生のブログでも探そうか?

お、SNSがあったから、読まさせて頂こう。

それにしても誤字が多いな、このレジュメ。

こんな毎日をコロナの間ずっと、家の中で朝から晩まで同じ椅子に座ってやらされたんじゃ、寅さんでなくても、学生はつらいよ。

学費を払うんじゃなくて、逆に金をもらわさせて頂けっつーの。

そうか。

ノートテイク用のアプリで先生の話を書き起こさせて頂いておけば、コメント欄の入力に没頭していても、あとで見返させて頂けるぞ。

お、練習問題の時間になって、先生が黙った❤

この10分間で、コメント欄の文章の推敲も、掃除も、洗濯も、お昼の支度も、やっとできる。

この時間を使わないと内職が進まないんだから、オンライン授業中の練習問題なんか、だれがさせて頂くかい。

(ブザー音)

なんで! このタイミングで宅急便が来るなんて...

投稿: 🐢(リアルタイム受講中) | 2022年4月24日 (日) 12時21分

あ、あのう。

この授業、ずっと出ていましたか?

もしよければ、「論文の書き方」論の授業のノートをコピーさせて頂けませんか?

いえ、さぼってたわけじゃないんですよ。急な用事が入って、どうしても話が聞けなくて...

あまり仔細には言えないんですが、例えるなら、

初めての仁川空港で、OQ先生が自分のゼミ生と僕を置いて出てしまい、帰国ロビーの方でどんなに呼び出しアナウンスをしていたところで、制限エリアのこちら側に聞こえるわけがない。

そうなりゃ、こちらはホテルの名前すら知らされてなくても、僕一人しか学生の面倒をみる人がいないんですから、ここは腹をくくって、再入場禁止ドアの向こう側にある、未知の韓国へ学生を引き連れて行くしかないでしょう。

そういった話です。

そうですよね、よくわからない例え話ですよね。

あのう、よければこの「コブクチップ」食べませんか? 韓国で人気のお菓子なんです。

近所のスーパーで今日、初めて見つけたんですけど、なんか親しみの湧く商品名だったので、2つも買っちゃって。

オンライン視聴しながら食べようと思ってたんですけど、職場に急行したので結局食べられなくて。

投稿: 🐢🍪📒 | 2022年4月24日 (日) 20時27分

あ、あのう。

昨日はノートコピーありがとうございました。

御礼と言ってはなんですけど「就活メイク学概論」の授業のノートコピーって要ります?

ウルトラ警備隊のヘルメット作りもせず、爆笑問題の日曜サンデーの「全日本 ラジオ新番組選手権 2022」も聞かずに、今日は朝から授業を受けていたんです。

眉じりは細目が流行。

オンライン面接はメリハリ&血色感。

口紅はスパチュラで削って紅筆で。

ここ、就職試験に出ますよ。

投稿: 🐢💄👩 | 2022年4月25日 (月) 19時16分

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