オンライン派と対面派
「すべての人間は2種類に分けられる。オンライン波と対面派だ」
これはおなじみ、映画『スウィングガールズ』中の名台詞、
「すべての人間は2種類に分けられる。スウィングする者と、スウィングしない者だ」
のパロディーである。しかし、このコロナ禍において、「オンライン派」と「対面派」があぶり出されたことは、間違いないと思う。
世の中には、どうしても対面でないとダメだという人がいるようだ。ある人は、感染状況がどんなに深刻でも、あれこれと理由をつけて現地に赴き、対面で仕事をするという。先方が「ちょっと感染状況がアレなんで、できればオンラインで…」と言っても、「政府は行動制限をしていないじゃないか」とごねて、むりやり飛行機に乗って現地参加したそうだ。とにかくオモテに出たくて仕方のない人がいるらしい。
また、こんなケースもある。オンライン会合を想定していたら、どうしてもハイブリッド形式(対面とオンラインとの併用)にしたいと言ってきた人がいた。隙あらば自分は対面で参加したいというのである。そればかりか、自分の気に入った人に声をかけて、対面参加を呼びかけたりもしている。ははぁ~ん、これは、あとで仲良しグループで飲みに行くつもりだな、ということにすぐに気づく。
つまり世の中には、「とにかく外に出たい人」「とにかく誰かと会食したい人」たちが、このコロナ禍にあって、さらにその衝動が抑えがたくなっているのである。
そこへ行くと僕は完全な「オンライン派」である。もちろん、どうしても現地に行かなくてはならない場合は、当然移動はするが、なるべくならオンラインで済ませたい派なのである。
今日の会議は、最初は現地参加するつもりだったのだが、7月後半の段階で、ほかの用事とバッティングしてしまうことが判明した。
片道だけで4時間ほどかかる場所を日帰りするのだから、いちにち仕事である。これではどう考えてもほかの用事と時間がバッティングしてしまう。しかし、オンラインであれば、会議の時間だけは参加できる。
僕はダメ元で、
「この日の会議、オンラインで参加することはできますか?」
と聞いてみた。ダメ元で、と言ったのは、この会議がいままで一度もオンラインで行ったことがなく、対面が原則だったからである。小さな組織なので、そもそもオンラインに対応した環境を整える余裕がなかったのだろう。
僕はそういう事情を知っていたので、おそるおそる、オンライン参加の希望を出してみたのである。すると、
「検討してみます」
という返信が来た。
これまでの経験上、難しい注文だったかな?という気がした。これまでも、この種の会議でハイブリッド形式を採用すると、何度となくうまくいかなかったからである。ましてや、数人しか事務スタッフのいない組織で、イチからハイブリッド形式の会議の環境を整えるということができるだろうか。集音マイクやZoomの契約など、予算の問題もあるだろうし、Wi-Fiの環境もよくわからない。
不安な気持ちで待っていたら、数日前に、先方からZoomのミーティングIDとパスコードが送られてきた。
2日前、接続テストをしてみたら、うまくつながった。
「無事につながりましたね」
考えてみればあたりまえである。ZoomのミーティングIDとパスコードさえ正しく入力すれば、たいていは接続するのである。
しかし問題はここからである。
「いま、パソコン同士ではつながりましたけれども、会議室では、パソコンではなく大きいモニターに接続して、そこから画面と音声を出すのですよね」
「ええ」
「それと、会議室にいる方々の発言も聞き取れるかどうかちょっと不安で…」
「会議室のマイクについては、集音マイクを準備したので大丈夫だと思います。モニターからの音声については、これから実験してみます」
「わかりました」
さて、会議当日を迎えた。
10分前に入室すると、会議室はすでに準備万端である。事前に少しマイクテストをして、会議の時間を迎えた。会議室の音声もほぼ問題なく聞き取れ、こちらから発する声もクリアに会議室に聞こえていたようだった。
ということで、大成功である。
僕がわがままを言ったせいで、オンラインを併用したハイブリッド会議について準備を進め、本番で滞りなく会議ができた、というその裏には、周到な準備とそうとうなご苦労、あるいはひょっとするとオンライン会議の実現に向けての各課へ根回しなんかもがあったかもしれない、と想像し、準備にかかわった事務スタッフのみなさんに敬意を表さずにはいられなかった。
そこでふと思った。
先方がオンラインでの参加を望んでいるのに、どうしても対面で参加したいというわがままと、先方が対面で参加してほしいと望んでいるのに、オンラインで参加したいというわがままと、どっちがよりわがままだろうか。
これ考えると、眠れなくなっちゃう。
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