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秘密の花園

7月31日(日)

4歳4か月の娘を連れて、実家に行く。

先日、僕宛てに届いたという、ある宗教法人の教祖が書いたという本をパラパラと眺めてみた。

送られた本には、送った人の直筆の手紙が同封されていた。もちろん、送ってきた人は、同じ高校の同窓生ということが書かれているだけで、まったく知らない人である。残念ながら、同窓会名簿を持っていないので、この人がほんとうに同窓生なのかは、わからない。しかしその差出人の名前は、こんな名前の人、いるんだ、と感心してしまうほどの、いい名前なのである。ひょっとして、通称名なのだろうか?

手紙には、「宗教に対する偏見を取り払い、素直な心でぜひ一読していただけましたら幸いに存じます」と書いてあった。やはり、昨今の別の宗教団体をめぐるスキャンダルを意識して、いろいろな人に送っているのだろう。一冊一冊に、直筆の手紙を添えているのだろうから、ご苦労なことである。

この手の本をまったく読んだことがないので、何が書いてあるかには興味がある。だがあんまり熱心に読んでいる姿を見せると、入信するのではないかと母に心配をかけるので、あくまでも興味のないそぶりをしながら、パラパラと本をめくった。

「この前、この宗教法人の事務所の近くを通りかかったので、中をちょっとのぞいてみたのよ」

なかなかどうして、母もまた、この宗教法人に興味津々ではないか。

「どうだったの?」

「そしたら、この本が山積みになっていたわよ」

やはり、危機感を抱いた宗教法人が、本を各方面に送りまくっているのだろう。

…というより、僕の母も、なかなかのルポライターぶりである。僕の野次馬根性は、母から受け継がれたものである。

さて、パラパラとめくってみた感想だが、文章全体が、比較的わかりやすく、想像していたような狂信的な表現などはみられない。文章は正直に言うと、ずば抜けて上手であるとも思えない。罰当たりなことをいうと、これだったら、俺の方がもっとうまく書けるのにな、と思ったほどである。

しかしそれが、多くの信者を獲得する手法なのだろうか。僕の文章は、どんなに表現の技巧を尽くしても、ごく少数の人にしか響かない。いや、響いているかどうかもわからない。だがこの文章は、できるだけ多くの人が読んですぐにわかるような書き方をあえてしているのかもしれない。

さて内容については、「規則正しい生活をしましょう」とか、「適度な運動をしましょう」とか、そんなあたりまえなことが書いてある部分もあった。あと、「コロナを必要以上に恐れるな」とか。あまり特殊なことを言っている感じではなかった。

しかし、そこに、やれ「霊」だの「スピリチュアル」だのという「ふりかけ」をかなりまぶしているので、やはりそこはどうしても受け付けられない。まあ、何かトラブルがあってもそれは「霊のしわざだ」ということにしておけば、なんとかなるよ、という考え方を示しているようにも思えたが、はたしてそんなざっくりとしたまとめ方でよいのかは、ちゃんと読んでないのでよくわからない。

こういってしまうと身も蓋もないが、つまりはある種の自己啓発本なのではないか、というのが僕の感想である。

しかし、すべての本が、こんな自己啓発的なわかりやすい感じなのだろうか?僕にはひとつの仮説が頭をもたげてきた。

僕は無宗教だし無神論者だが、強いていえば「大林教」の信者である。映画作家の大林宣彦さんの映画はもちろん、その人となりも信奉している。誤解のないようにいうが、もちろんこれはあくまでたとえ話であり、実際には信仰というよりも「推し」というニュアンスの方が近い。

僕が大林監督「推し」だからといって、僕は自分以外の誰かに、大林監督の映画を熱心に薦めようとは思わない。これはあくまでも僕の人生にかかわる問題であり、それを第三者が理解するなんて、不可能だと思うからである。

それでも、大林映画のことをあまり知らない人に、「大林監督の映画を観てみたいのですが、おすすめの映画はなんですか?」と聞かれたとしよう。

まあ、「異人たちとの夏」とか「青春デンデケデケデケ」あたりを薦めるだろうな。そのあたりが、大林監督としては珍しく万人受けする「口当たりのいい映画」だと思うからである。

これを、「いつかみたドラキュラ」「麗猫伝説」「はるか、ノスタルジイ」「おかしなふたり」あたりを薦めたら、初めて見る人は戸惑うんじゃないだろうか。あまりにも大林監督のカルト的世界に満ちているからである。

何が言いたいかというと、僕に送られてきたその本は、初めて接する人の抵抗をなくすために、あえて口当たりのいい本を選んで送ってきたのではないのだろうか。その背後には、数多くのカルト的な本が存在しているはずである。そうでないと、強力な「推し」はついてこないと思うのだ。僕が大林監督のカルト的世界観の映画にとらわれたのと同様に、である。

おそらくほとんどの人は、この本がきっかけに入信するということはないだろう。やはりこれは、まったく関心のない人に対して、昨今の宗教に対する偏見を取り除き、この社会の中でその宗教法人が生き残るために送られてきた、というのが僕の仮説である。

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