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M-1出場のまぼろし

8月14日(日)

午後、4歳4カ月になる娘を連れて、滞在先からほど近い、自然豊かな公園に行く。

その公園には森林に囲まれていて、そのなかに、アスレチック的な遊具が置いてある一角がある。娘はその場所がお気に入りのようで、どうしてもそこに行きたいというので、連れて行くことにしたのである。

ただ、そのアスレチック的な遊具の多くは、4歳児にとってはやや難易度が高い。その多くが、対象年齢6歳以上、とある。それでも、人気の一角なので、そんなことおかまいなしに、おそらくは6歳未満であろう幼児を連れた家族連れもその場所で遊んでいる。

僕はほとんど体力がないので、娘だけを遊ばせておいて、自分は近くのベンチに座って休んでいたかったのだが、なにしろ4歳なので、目を離すわけにはいかない。結局、つきっきりで、娘が遊具で遊んでいる場所で、見守ることになる。それなりに楽しんではいたが、年老いた父と一緒に遊べないことがわかっているので、なんとなく退屈そうでもある。

こういう場所で、よく行われているのは、「鬼ごっこ」である。とくに、複雑な構造をもつすべり台などは、鬼ごっこをする格好のスポットなのである。

今日も例によって、元気な男の子たちが、すべり台のまわりで鬼ごっこをしていた。

それを見つけた娘は、どうやらその鬼ごっこに参加したくてたまらないらしい。男の子たちに交じって、逃げ回ったり追いかけたりしている。別に娘は、その鬼ごっこに正式に参加しているわけではなく、「鬼ごっこに参加している風(ふう)」を装って、鬼ごっこの疑似体験をしているのである。少し年上の男の子たちとの身体能力の差は歴然としているのだが、それでも、楽しんでいるようだった。

「そんなに遊びたいんだったら、『一緒に遊ぼ』といえばいいのに」

と僕は、そのたびに娘に言うのだが、娘は決まって、

「だって、恥ずかしいんだもん」

と言って、仲間に入ろうとはしない。

ひとしきり鬼ごっこが終わって、さあ帰ろうか、と思っていた矢先、こんどはその男の子たちは、虫とり網を持って、「虫取りに行こう」ということになったようだった。

それを近くで耳をそばだてて聞いていた娘が、

「○○ちゃん(娘のこと)も虫とりに行きた~い」

と言い出した。ちなみにその時点で時刻は4時近くになっていた。

「もう帰ろうよ。お空が暗くなっちゃうよ。雨も降ってきそうだし」

「イヤだ、行きた~い」

そういうと、娘は男の子たちについていって、山道を進もうとする」

「パパはしんどいから、ついて行けないよ」

「いいよ。パパはそこで待ってて」

といって、山道をずんずん奥の方へ歩いて行った。

さすがにこれはまずいと、僕も仕方なく山道に分け入ることにする。

娘は、先を歩いている男の子たちを追いかけるのに必死である。男の子たちに無許可で、後をついて行っているのだから、これが大人だったらストーカーのレベルである。

「さっき、虫を見つけたよ。前の男の子たちは気づかなかったけど」

「じゃあ、男の子たちに教えてあげないと」

「だって、恥ずかしいんだもん」

だったらなんでついて行っているんだ?という言葉をグッとこらえる。いつものことなのだ。

ようやく男の子たちに追いついたのだが、いつの間にかそのコースは遊具のある一角に戻っていて、男の子たちもその時点でもう虫とりは飽きちゃったみたいだった。

再び男の子たちは遊具で遊びはじめたが、娘もそれに混じって遊んでいると、ふとした瞬間に転んでしまい、頭をぶつけてしまった。

転んだり、頭をぶつけたりする時にはふたつのパターンがあって、泣かないパターンと、泣くパターンがある。

これは明らかに泣くパターンだな、と思った瞬間、娘は僕のところに近寄って、顔を埋めて泣き始めた。

「大丈夫、痛くないから」と慰めながら、「せっかく男の子たちと遊べるんだから、戻って遊んできなさいよ」

「ヤだ」

「どうして?」

「泣き顔を見せたくないから」

そこで、男の子たちのグループとあっさり別れたのだった。

たぶんこの年齢にありがちのことなのだろうが、一緒に仲間に加わりたいけど、恥ずかしくて言い出せない、とか、自分の恥ずかしい姿を見ず知らずの人に見せたくない、という気持ちが強いのだろう。

娘と僕のふだんのやりとりがけっこう面白いと自負しているものだから、何日か前、娘に、

「一緒に『M-1』出てみる?」

と冗談で聞いたら、

「出た~い」

と言っていた。しかし、今日のようなことがあると、見ず知らずの人の前で自分を見られるのが恥ずかしいと思っている娘に、M-1出場は無理かも知れない。もう一皮むけてくれるといいんだけどな。

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