くつろげない定宿
10月10日(月)
ひとり合宿、初日。
もう何度目になるのかわからないが、すっかり常連さんである。
受付で手続きをすませ、
「2階に行って、抗原検査を受けてください」
と言われる。1階が受付、2階が検査室である。そんなことも、もうわかりきっている。
検査室の窓口に行くと、だれもいないので、ベルを鳴らす。
「はい、いま行きます」
とおじさんの声。あ、あのおじさんだな、とすぐにわかる。
「お待たせしました。鬼瓦さんですね」
窓口越しに書類を受け取ったそのおじさんは、
「抗原検査しますのでこちらへどうぞ」
と私の顔見た瞬間、
「あ!鬼瓦さんじゃないですか」
と、まるで知り合いのような反応をした。
「僕のこと、わかります?」
とおじさんは、自分のことを指さした。
「ええ、知ってますよ(名前はわからないけれど)。何度もお世話になってますから」
と言うと、そのおじさんは安堵した表情を浮かべた。
抗原検査をすませると、いつもは検査室の奥の方の薄暗いスペースに座って待たされる。万が一陽性の場合、ほかの患者との接触を避けるためだろう。しかし今日は違った。
「結果が出るまで30分ほどかかるので、どうぞ待合室でテレビでも見ながら待っていてください」
まるで、
「待っている間、テレビでも見てくつろいでいてください」
と、わが家に僕を招待したような言い方である。おいおい、いいのかよ!
もう完全に僕は、この家の子なんだな。ひとり合宿の部屋も、毎回同じ403号室だし、まるで定宿である。
扱いもだんだんいい意味でぞんざいになってきて、「ほったらかしにされている感」が、ますます強くなっている。
しかしこんなことは決して喜ばしいことではないのだ。早く「ひとり合宿」のループから脱け出したい。
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