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10年前の話

11月18日(金)

数日前、公共放送のある地方局から、取材の依頼が来た。ある特集番組を、来年の春に放送する予定で準備を進めているのだが、そのために、10年前の話をしてほしいという依頼である。実際にカメラの前でインタビューすることになるかはわからないが、まずは「情報取材」をさせてほしいのだという。10年前の話をたどっていったら、おそらくインターネットか何かで僕の名前が引っかかったのだろう。

なるほど、取材の前の下取材のことを「情報取材」というのだな。お笑い芸人でいえば、オーディションというやつであろう。その「情報取材」でうまくディレクターのイメージにハマれば、晴れて本番の取材をする、ということなのだろう。

「思い出話みたいになってしまいますが、それでもいいですか?」

「かまいません」

10年前の俺の思い出話なんぞ、何の役に立つのか?ま、どうせ俺の話なんぞ、採用されないに決まっている。

で、今日の夕方、その担当ディレクターによるZoomでの「情報取材」に応じることにした。

別にカメラがまわっているわけでもないし、そのディレクターとは初対面だから、10年前の話の発端から順を追って話し始めると、

「あのう…そこのくだりはいらないです。その後どうなったのか、という話からお願いします」

おそらく、僕の話が長くなりそうだ、ということを、ディレクターが察知したのだろう。

せっかく説明してやってるのに、と、一瞬カチンときたが、たしかに俺の話もクドかったと反省し、その続きの話から始めた。

話していくうちに、10年前の出来事がどんどん思い出されてくる。なぜ自分は、そのときにそのようなことを考え、そのような行動をとったのか?そしてそのとき自分がどう感じたのか、そしていまどんなことを考えているのか、を一気に話した。

「…聴き入ってしまいました」とディレクター。「思い出話とはいいながら、まるで昨日のことのように覚えていらっしゃいますね」

「そんなことはありません」

昨日のことは忘れるが10年前のことは覚えているというのは一種の老化現象ですよ、と喉元まで出かかった。

「また後日、あらためてお話を聞くことができますか?」

なんだ?2次面接があるのか?

「お話といっても、この程度の思い出話以上のことは語れませんよ」

「いや、いままでボンヤリとしていたことがすっきりとわかった気がします。ちょっと今日の話、こちらの方で整理させていただいて、またお話をうかがえればと」

「そうですか」

ディレクターは、自分の頭の中で、番組のできあがりのイメージを必死に組み立てているようだった。僕の話ははたしてディレクターのイメージする番組の中に、パズルのピースのようにはめ込むことができるだろうか?よくわからない。

「会って話が聞きたいと思う人とこうしてお会いできてよかったです」

ほんとかよ、と思いながら、Zoomによる「情報取材」はひとまず終了した。

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