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パンダファンミーティング

11月5日(土)

文筆活動や地方局のラジオパーソナリティーをしている「うっすい知り合い」(「知り合い」であると強調するにはあまりにもおこがましく、ちょっと憚られるので、「うっすい知り合い」ということにする)が、僕の住む市にある小さな書店で、トークイベントをすると聞いたので、これも何かの縁と思い、来店参加することにした。

「どうせファンミーティングなんでしょ?」「違う。トークイベントだよ」と家族に嫌みを言われながら、バスと徒歩で会場に向かう。

なんでも、今年はパンダ来日50周年なのだそうだ。それでパンダをテーマとして企画したそうで、自他ともに認めるパンダ好きのその「うっすい知り合い」と、パンダの専門家との対談が実現したのであった。

開始直前に、小さな店内に入ると、10名程度の来店参加者がいた。だんだんわかってきたことだが、来店参加者のほとんどは、ガチのパンダ好きだったようである。

僕は端っこの席に座り、パンダに詳しくない俺が来たのは場違いだったかなあと身を潜めていると、その「うっすい知り合い」が、緊張した面持ちで、

「こんにちは。お久しぶりです」と会釈したので、僕も突然のことであわわとなり、「どうも、こんにちは」と返すのが精一杯だった。その「うっすい知り合い」は、対談する席に着いた。

するとその後ろに立っていた方が、

「ご無沙汰しております。その節はどうも」

と声をかけてきた。その「うっすい知り合い」が書いた本の担当編集者の方である。

「おやおや、ご無沙汰しております」

話が長くなるので、かいつまんで話をすると、その編集者とは、ある場所で名刺交換をしたことがある。その際に、同じ鬼瓦姓だったことにおどろき、「同じ鬼瓦姓なんて、珍しいですね」という話になり、これも何かのご縁と、以前僕が編集を担当した雑誌を送ったことがあった。するとしばらくたって、その編集者から、その出版社から出した新刊が送られてきた。つまり本の交換をしたのである。送られてきた2冊の本は僕の好みそうな本を選んでくれたらしく、たしかに読んでとてもおもしろかったのだが、忙しくて感想をお伝えするタイミングを逸していたところだった。

「前にいただいた本、とてもおもしろかったです。感想のお返事を出さずにすみませんでした」

「いえいえ、それにしても、不思議な縁ですね」

「そうですね。まさか鬼瓦さんがあの本の編集担当だったとはね」

「そういう鬼瓦さんも、著者と以前からお知り合いだったとは」

という謎の会話。

トークイベントが始まった。内容は、予想していたとおりパンダの話で、パンダの専門家がほとんど喋っていた。「うっすい知り合い」は、ラジオパーソナリティーらしく、その専門家の話をうまく引き出していた。

最後の質問コーナーでは、ガチのパンダ好きによる質問も出て、ああ、ほんとうにこの場はパンダ好きが集まっていたのだなと実感した。僕の隣に座っていた若い男性は、対談の間、ふたりの話をずっとメモしていて、そのメモにもとづいて質問をした。その真摯な姿勢に、僕は胸を打たれたのだった。おそらくパンダ好きに、悪い人はいないのだろう。

1時間半のトークイベントが終わったあと、僕は帰り際に「うっすい知り合い」と担当編集者に挨拶をした。

「鬼瓦先生は、引きが強いですよね」その「うっすい知り合い」も、担当編集者と僕の不思議な縁に驚いていたようだった。

「よくそう言われます」そして編集担当者の方を向いて、「いつか鬼瓦さんといっしょに仕事ができる機会があればいいですね」「そうですね」と言葉を交わし、書店をあとにした。僕もエッセイ集を出したいぞ。

そして、少しだけパンダについて詳しくなったぞ。

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