私の周りのエリコさん
12月3日(土)
午前中は、保育園の学芸会である。4歳児クラスと5歳児クラスが出し物をするのだが、コロナウィルスの影響で、「密」にならないために、二つのクラスは時間帯を分けて行い、保護者も完全入れ替え制である。つまり、他のクラスの出し物は見ることができない、ということである。5歳児クラスの出し物も見てみたかった気がするが、こんなご時世だから仕方がない。
それにしても、保育園のスタッフのみなさんには頭が下がる。日々、何かあっちゃいけないと思いながら園児の面倒を見つつ、コロナウィルスの感染予防対策にも気を遣わねばならない。保育園には、オモテだって「モンスターペアレンツ」はいないように見受けられるが、ただ、日々些細な苦情とか質問なんかは寄せられているはずである。苦情とまでは言えない、どんな些細な意見や質問であっても、それが保育士さんにいくつも浴びせられると、積もり積もって大きなストレスとなってのしかかっていくはずである。こっちは悪気がなくても、結果的にそうなってしまう事に、十分注意しなければならない。
今日の学芸会も、コロナウィルス感染の影響で開催が危ぶまれたが、みんなに納得でいる形で感染対策を講じてくれたおかげで、実現の運びとなったのである。その裏にはそうとうな準備が必要だったに違いない。
学芸会の最初は、園長先生からの挨拶から始まった。
誰かに雰囲気が似ているなあ、と思ったら、阿佐ヶ谷姉妹の姉の方の、エリコさんである。とくに顔かたちが似ている、というわけではないのだが、声のトーンや言葉のチョイス、抑揚などが、実に折り目正しい。先日の運動会の時から薄々そんな気がしていたのだが、このたびの挨拶を聞いて、自分の中でそれが確信に変わったのである。もちろん、たぶん異論はあるだろうと思うので、それほど強く主張したいわけではないのだが、僕の中では、園長先生を見れば見るほど、阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんにしか見えなくなる。
阿佐ヶ谷姉妹は、よく漫才のネタで、エリコさんは「万引きGメン顔」をしている、と言ったりしているが、僕から言わせれば、「保育園の園長先生顔」をしている、という方がしっくりくる。
しかしそう思って自分の記憶をたどっていくと、思いあたる人がもう一人いる。僕が定期的に通っている総合病院で、採血を担当している看護師さんが、やはり阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんを彷彿とさせるのだ。
この方も、顔かたちが似ているというわけではないのだが、やはり声のトーンや言葉のチョイス、抑揚などが似ているのである。
その方の発する言葉というのは毎度決まっていて、
「番号○番の方、おいでください。荷物はこちらに置いてください。お気をつけておかけになって下さいね。お名前と生年月日をおっしゃって下さい」
「お医者様から、どちらかの腕からは採血してはいけない、と言われたことはありますか?」
「アルコール消毒で皮膚がかぶれたりすることはありませんか?」
と言うだけなのだが、その人がこのセリフを言うと、その抑揚がエリコさんのそれとよく似ているような気がするのである。
で、その方に採血があたると、なんとなく、安心して任せられるような気になる。
もちろんその病院の看護師さんたちは、みなさん採血が非常に上手で、僕のような血管が出にくい人間に対しても、瞬時で血管を見つけ出し、さっと採血してくれるのだが、そのエリコさんに似た方に当たると、なおさら安心できる感じがするから不思議である。
つまり僕の中では、阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんは「採血師顔」でもあるのだ。というか、採血師なんていい方、あるのか?
それからというもの、自分の周りには、阿佐ヶ谷姉妹のエリコさん的な人が、けっこういるのではないかと思うようになった。保育園の園長先生とか、採血師とか、要は、自分の子どもや自分の命を安心して預けられる、と感じることのできる人が、僕の周りにいるエリコさんなのではないか。
…とまあ、そんな他人に共感されないような妄想を抱きながら、学芸会の最初と最後の園長先生の挨拶を聞いた。
もちろん、うちの娘の演技と歌は、ほかの子にくらべて格段にすばらしかったことを申し添えておく。いい舞台俳優になるだろう。
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