翻訳家に会う
12月4日(日)
僕の住んでいる市にある小さな書店で、トークイベントがあり、来店参加した。これで3回目である。
今回は、僕が大ファンの翻訳家だ。いま、その分野では大活躍している。
今日は早めに来店し、いちばん前の席のベストポジションを陣取る。ちょうど、翻訳家の方と目が合いやすい位置である。
さすが、その国の文学のファンや翻訳家自身のファンが多いとみえて、狭い店内に20名くらいのお客さんが入っている。男女の比率でいえば、女性の割合が多い。
始まる直前、司会の方と翻訳家の方がスタンバイしていると、
「なんか、お客さんとの距離が近いので、すごい圧を感じます。頭が真っ白になって喋れなくなりそう。90分も喋ることあるかしら」
と、ちょっと怯えているようだった。そりゃあそうかも知れない。僕のような太った人間が目の前に座っているのだから、当然、圧は感じたであろう。僕は、できるだけ緊張されないように、終始「ピクニックフェィス」を心がけた。
いざ、トークイベントが始まると、司会の方が質問をしたり合いの手を入れる隙もないほど、よどみなくお話になる。僕はよくラジオでこの方のお話を聞いたことがあるが、そのときの印象そのままである。
あまりの情報量の多さに、僕は忘れないように必死にメモをとった。まるで上質の授業を聞いているようである。
90分目一杯お話になって、あっという間にトークイベントが終了した。
僕は、トークイベント終了後、あることを実行しようとしていた。
本にサインをもらう、というのはもちろんだが、その後に自分の名刺と、自分が以前に編集した雑誌をお渡しすることを考えたのである。
実はその翻訳家の方は、つい最近、どういうご縁かうちの職場で出している雑誌に寄稿していただいており、先月刊行されたばかりだった。つまり、「先日はうちの雑誌に寄稿していただきありがとうございました」といって名刺を差し出す理由は十分あるのである。
さらに、自分がかつて編集した号も、その翻訳家のお仕事といささか関係しているところがあり、それをお渡しすれば、興味を持って読んでいただけるのではないかと考えたのである。まあ、ずいぶんと手前勝手な話で、先方からしたら、かえってご迷惑かも知れないのだが。
それでも意を決して実行することにした。
「サインをお願いします」
「お名前は?」
そこですかさず名刺を出す。
「実はこういう者です。先日はうちの雑誌に寄稿いただき、ありがとうございました」
「ああ!いえいえ、こちらこそありがとうございました。あの雑誌で紹介した作家、まだ自分では翻訳していませんが、これから翻訳に挑戦してみたいと思っているのですよ」
「それは楽しみです。ぜひお願いします。…で、お荷物になるかも知れないのですが、以前の号で、私が編集担当だった号をお持ちしました」
特集号のタイトルを見て、
「タイトルだけで面白そうですね」
と言ってくださったので、調子に乗った僕は、ページを開いて、
「このページのこの写真、今日のお話と関係するかと思いまして…」
「まあ、そうですねえ。ぜひ読ませていただきます」
と言っていただいた。ま、受け取った方はそう言わざるを得ないだろう、ということは重々承知である。
ひどく独りよがりの「イタいファン」としての行動をとってしまったことは、猛烈に反省したが、それでもこの先、どのような縁が待っているかもわからない。そのためには、こんなことは恥のうちには入らない、と思うことにした。
これからもミーハー精神でいこう。
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