1月27日(金)
今週も、よくぞ、よくぞ「アシタノカレッジ金曜日」のアフタートークまでたどり着きました!
最近は、ほんとうに1週間単位で、生きていることへの安堵を感じる。
高橋幸宏『LOVE TOGETHER YUkIHIRO TAKAHASHI 50th ANNIVERSARY』(KADOKAWA、2022年9月)という本が出ていることを、つい最近知った。ユキヒロさんが亡くなる前に刊行されたものである。
実に多くの人たちがユキヒロさんの思い出話を語ったり、あるいは過去にユキヒロさんがいろいろな人と対談した記録がまとめられている。とにかくユキヒロさんと関わりの深い人たちが、この本の中で一堂に会しているのである。
この中で僕が読み耽ってしまったのが、三宅裕司さんへのインタビューと、2015年4月6日に行われた大林宣彦監督とユキヒロさんとの対談である。
三宅裕司さんがまだぜんぜん売れていない頃、ユキヒロさんが劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」に注目し、「高橋幸宏のオールナイトニッポン」で三宅さんを抜擢し、「SET劇場」というコーナーを作った。それが三宅さんが頭角を現すきっかけになったのである。その後、YMOの最後のアルバム「SERVICE」に、曲間にSETのコントが入っていることはよく知られている。
そのインタビューによれば、三宅さんが所属するアミューズの副社長・出口孝臣さんが、ユキヒロさんにお世話になったお礼に何かしなきゃというので、映画を1本作ろうということになった。それが『四月の魚』だというのである。『四月の魚』の企画は、アミューズの出口さんと大林監督によって立ち上げられたのだ。なるほど、そういうことだったのか。
三宅さんのインタビューに続いて、大林監督とユキヒロさんの対談が収録されている。2015年の対談なので、まだ『海辺の映画館 キネマの玉手箱』の企画が立ち上がる前である。
この対談も、僕にとっては興味深い。ユキヒロさんが「この映画(『四月の魚』)、ちょっと早すぎたかも知れないねと、監督がおっしゃってましたね」というと、大林監督が答える。
大林「そう。こういうおしゃれなラブコメディは、当時、まだ日本になかったから。まだまだシリアスなものがほとんどで」
司会「監督のフィルモグラフィの中でも珍しいタイプの作品ですか?」
大林「珍しいですよね、これは。たまたまジェームス三木が書いた原作が面白かったから、『よし、これでビリー・ワイルダーやジャック・レモンのような、おしゃれな映画を作ってやろう』と。でも、いい役者がいませんよ。いや待て、高橋幸宏という人がいるじゃないか、と」
たしかに。大林宣彦監督には珍しいウェルメードなおしゃれなラブコメディ。僕の見立ては間違っていない。
『四月の魚』の撮影のあとは、原田知世主演の『天国にいちばん近い島』に、原田知世の父親役でゲスト出演する。もっとも、映画の中で二人が絡む場面はなく、原田知世がユキヒロさんの遺影を持っているという場面のみである。このことについて、大林監督は次のように語っている。
大林「しかも今、実際に知世ちゃんと一緒に(pupaを)やっているんでしょ?僕はね、『辻褄が合う夢』って言っているんだけど、そのときは勝手な夢を見てやっているだけのつもりが、時間が過ぎて後から振り返ると、すべて物事の辻褄が合っているんです。今、幸宏ちゃんが知世ちゃんと一緒にやっているということは、もうここで既に決まっていたという」
高橋「僕も運命論者なので、それは何となくわかる気がしますね。偶然は必然だっていう」
大林「人間の偶然は神様の必然でね。僕たちは、上の人(神様)の必然に従って生きているだけでね。ただ、それがわかる能力がないから「偶然だ、偶然だ」と思っているだけで、ちゃんと繋がっているんですよ」
このあたりの大林監督の言葉は、監督の哲学がよくあらわれているところである。とくに「辻褄が合う夢」は、僕自身がこれまで生きてきて実感していることでもある。
そして対談の最後。
大林「必然的に出会ってから随分と親しく、こうやっていろんな映画に出てもらって、僕にとって、友達です」
高橋「監督に、そう言ってもらえるのが一番嬉しくて。あるとき監督が、『僕は友達が多そうにみえるかも知れないけれど、友達ってそんなにいないんだよね』とおっしゃっていて。そんな中の大切な一人だからと言ってもらえて、ものすごく嬉しかった」
大林「皆さんはどうかな?『友達』っていうと、年中会ってね、無駄話をしたり、お酒を飲んだりしてると思うでしょうが、幸宏ちゃんと会うのは久しぶりだよね?ほんとうに大切な友達っていうのはね、みだりに会っちゃいけないんです。どうかしたら一生会っちゃいけないかもしれない。人は会うと下品になるから、会わないでいるほうが上品になれる。今日はこういう形で、仕事として会いながら、とても大切な友情の場になっているんだけど、『幸宏ちゃん、ちょっとお酒飲まない?』といういう風にはいかない。離れていると、お互いに詩的な素晴らしい関係でいられるけど、会うとすぐに駄洒落が出たりするしね(笑)」
高橋「確かに(笑)」
大林「そんなわけで、幸宏ちゃんは、みだりに会っちゃいけない大切な人。その代わり、いつも心の中にいます」
この「友達論」も、大林監督がよく語る哲学で、僕もこの生き方を真似している(つもりである)。「またこんど、飲みに行きましょう」ではなく、「またこんど、一緒に仕事しましょう」というのが、再会を約束する言葉である。
この対談の3年後の2018年、大林監督は『海辺の映画館 キネマの玉手箱』の撮影を開始し、ユキヒロさんはとても重要な役にキャスティングされる。大林監督は、ユキヒロさんとの大切な友情の証として、人生の最後に、一緒に仕事をするという約束を果たしたのである。
なんという「辻褄の合う夢」だろうか。
最近のコメント