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1.5倍速

すでに先週のことになってしまったが、TBSラジオの「アシタノカレッジ金曜日」がこの4月から「武田砂鉄のプレ金ナイト」という番組に変わり、放送時間も、以前の2時間から、1時間半に短縮されてしまった。ところが、番組の構成じたいは、2時間時代の「アシタノカレッジ金曜日」と変わらない。

30分短縮されたことでどうなっちゃうんだろうと思って番組を聴いてみると、驚いたことに、ラジオパーソナリティーの武田砂鉄さんが、これまでよりも1.5倍速くらいの早口で、立て板に水の如く喋っているのである。

まだTBSラジオでレギュラーをもっていない時代、つまり文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」の2週に1度のコラムのコーナーが唯一のレギュラーだった時代から知っている僕としては、もちろんその朴訥として理路整然とした語りは昔から変わっていないが、それがスピードアップしていることに驚いたのである。

むかし、NHKのアナウンサーの鈴木健二さんが書いていたように記憶しているが、作家の方は無口な人が多い、「自分は書くのはいいけれど喋るのはどうも苦手でね…」と言う人が多いのだが、実際に喋ってもらうと、これがなかなか上手である、みたいなことを書いていて、なるほどそういうものだろうと思った。文章を書くことと喋ることは地続きなのだ。

武田砂鉄氏の場合も、あの文体を彷彿とさせる喋りが心地よいのだが、それがさらにラジオの生放送の場数を踏むことによって、ラジオ向きの喋りを獲得したということなのだろう。

人による、といわれればそれまでだが、本をたくさん読むことで、書くことや喋ることが研ぎ澄まされる。

文系、理系など関係なく、本が好きな人は会話をしていても話のツボを押さえている印象が強いのだが、それに対して、本を読むのが嫌いと公言してはばからない人と会話をすると、およそ頓珍漢な結果に終わることが多いのは、たんなる偶然ではないだろう。

以前にも書いたと思うが、アートが好きな人が、下手なアートを見たときに具合が悪くなると聞いたことがある。これは音楽でも文章でも同じことだと思う。音楽が好きな人が下手な音楽を聴くと具合が悪くなるのではないだろうか。同様に、どうにも頓珍漢な文章を読むと僕は具合が悪くなる。過渡期にあると思われるAIによるチャットアプリを試す気にならないのは、読んでいて具合が悪くなりそうだからである。

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