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夢は究極のミニコミ誌

5月29日(月)

高校時代の恩師がガリ版刷りのミニコミ誌に連載しているエッセイがとても面白かったので、このミニコミ誌に俄然興味がわいた。

僕は、そのミニコミ誌の細かい情報について、先生からまったく聞かされていないので、それが入手できるのかどうかもわからない。

ところが、先生のエッセイの中に、ミニコミ誌のタイトルとおぼしきものが書かれていたので、それを頼りに検索すると、ある出版社のホームページがヒットした。

そこには、その出版社が出版した本が、そのミニコミ誌で書評されたことが紹介されていて、そこには、「(書評を載せてくれたミニコミ誌は)年6回発行されている全ページ手描き文字の通信です。 謄写版印刷の暖かみが伝わるミニコミで、下記へ年間購読料を払い込むと定期購読できます」と書いてあり、年間購読料と郵便振替口座の番号が記されていた。

これだ、これに間違いない。

さっそく、そこに書かれている郵便振替口座に、年間購読料を振り込んだ。

するとその2日後だったか、見知らぬ番号から電話があった。

「もしもし、鬼瓦さんですか?」

「はい」

「私、ミニコミ誌を編集している者です」

だいぶお年を召した女性の声だった。

「このたびは、購読していただきありがとうございます」

「いえいえ」

「あのう…振り込んでいただいた購読料なんですけれど…この口座、どこでお知りになりました?」

「実はインターネットで検索して、郵便振替口座の番号と年間購読料を紹介しているホームページを見つけたのです」

「言いにくいのですが…600円足りないのです」

「そうなんですか?」僕はホームページで紹介されたとおりの購読料を支払ったつもりだった。

「以前はその購読料だったのですけれど、最近、値上げをしまして」

「そうだったのですか」

「お送りする会報に、振込用紙を同封しますので、600円を追加でお支払いいただけますとありがたいのです」

「ええ、それはもちろんです。承知しました」

「それと、…このミニコミ誌をどこでお知りになりました?」

「Nさんです」僕は高校の恩師の名前をあげた。

「そうだったんですか。購読いただけて、大変うれしいです」

「こちらこそ、楽しみにしています」

といって電話が切れた。

で、今日、そのミニコミ誌が届いた。

完全なる手作りによるミニコミ誌である。

先生が言っていたとおり、最初から最後まで手書き、しかもガリ版刷りだった。

「編集・ガリ切り・印刷・発行」としてひとりの名前が書かれている。なるほど、「ガリ切り」って言うんだな。

B4の紙の両面にガリ版印刷したもの6枚を、半分に折ってB5サイズの雑誌のような作りになっている。B4サイズ1枚あたり4頁の計算になるから、1号あたりのページ数は24頁になる。しかしホッチキス止めはしていない。

これぞ、究極のミニコミ誌である。

記事の内容はじつに多彩である。巻頭を飾るエッセイや、いくつかの連載、読者の投書欄、科学エッセイなど、読んでいて飽きない。もちろん、高校時代の恩師の連載エッセイは、その中に自然に溶け込んでおり、しかも抜群に面白い。

書いている人たちというのはどんな人たちなのだろう?と思っても、肩書きなど一切ないので、どんな人なのかもわからない。読者の投書欄には「○○県××市」と書いてあるのだが、その住所は全国に及び、特定の地域にかたまっている、というわけでもない。

うーむ。このネットワークはいったい、何なのだろう?ますます僕の興味をかき立てる。

…と、ここまで来て僕は気がついた。僕は、こういうミニコミ誌が、大好きなのである。

このミニコミ誌のほかにも、定期的に、ある団体からの会誌が送られてくる。それもまた、B4サイズの紙を二つ折りにして全4頁としたところに、会員がエッセイを書いているというスタイルである。さすがに手書きではないけれど、ぬくもりが伝わる。

そういえば僕は少し前に、「アングラもアングラ、ひっそり作っている秘密の会誌」に文章を寄せたことがあった。それもまた、B4サイズの紙を二つ折りにして全4頁にまとめた会報である。「秘密の会誌」というくらいだから、発行人の名前も事務局の場所も書かれていない。読者も想定していない。じゃあいったいだれが読むんだ?という、これもまた、究極のミニコミ誌である。

よく考えてみたら、僕はそういうミニコミ誌が大好きなのだ。それも、アングラであればあるほどよい。

前にも書いたが、20代の頃、高校の後輩たちに向けてミニコミ誌、というか個人誌を、だれに頼まれたわけでもないのに作成していた。内容は、いまやっているこのブログと同じようなテイストのエッセイをいくつか載せたもので、それを強引に後輩たちに送りつけていたのである。やってることは「ジャイアンリサイタル」と変わらない。この個人誌もまた、B4サイズを二つ折りにして全4頁にしたものだった。

僕は、職業的文章を本にするよりも、B4サイズの紙を二つ折りにして作るミニコミ誌を作ることのほうに、憧れているのだ。「B4サイズの紙を二つ折り」にして作る、というのがポイントである。

僕にもし余生があるとしたら、究極のミニコミ誌を作って過ごしたい。

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