恩師に会う
5月1日(月)
高校時代、3年間担任だった先生が、いま開催中の僕のイベントを、わざわざ見に来てくれた。
恩師は、5年半ほど前に死んだ父と同じ年の生まれだから、もう82才である。
イベント会場に行くと、すでに先生は到着されていて、会場内の椅子に座って休んでいた。
「疲れちゃってねえ」
それはそうだろう。先生のご自宅のある場所からうちの職場までは、電車を乗り継いでゆうに3時間以上かかるのだ。
ちょうどお昼時だったので、先生と職場内のレストランに入り、昼食休憩を取りながら1時間ほど喋った。
僕が、これまでの自分の病気と、いまの体調の話をしたら、たいそう驚いておられた。
「先生と久しぶりにお会いしたのは、たしか2018年くらいだったでしょうか」
「そうだね」
「あのときは、すでに大病を患ったあとだったのです」
「そうだったのか。ちっとも知らなかった」
先生は先生で、ご自身のご病気や体調のことをお話しになった。僕が高校生の頃から、というより、幼い頃から抱えている身体の不具合についてお話になった。
「知らなかったでしょう?」
「ええ、まったく知りませんでした」
「だって、そう悟られないようにしていたから」
しかし、不具合の部分があるご自身の身体と長年つきあい、それによってご自身の身体をよく知り、次々と訪れる困難を未然に防ぐことができるようになった、ともおっしゃっていた。
「同じクラスだったIさん、覚えてる?」
「Iさん?」
その名前を聞いて、最初はピンとこなかった。しかし話しているうちに、その同級生のフルネームや顔を思い出し、しかも名前の漢字まではっきりと思い出したのだから不思議である。
「Iさんの旦那さんがね…。コロナウィルスがまん延し始めた頃、コロナウィルスに感染してたちまち亡くなってしまったそうなんだ」
「…そんなことがあったのですか」
Iさんの夫というのは、僕の年代とそう変わらないのだろう。
「遺体とも面会できないし、子どもたちと一緒に途方に暮れたそうだ」
「…そうだったんですか」
「いまでも彼女は僕のところに電話をよくくれてね。長電話をするんだ」
Iさん、どちらかといえばクラスでそれほど目立った存在ではなかったが、ずっと先生を頼りにしていたんだな。
食事が終わり、席を立とうとすると、
「…がんばりなさい」
と、先生が僕に力強い声でおっしゃった。ふだんはボソボソとお話しする先生にはめずらしい、力強い言葉だった。たぶん、僕の病気の話を聞いたからだろう。
「がんばります。…なにしろ僕の信条は、『平気で生きる』ですから。これ、正岡子規の言葉なんです」
「『平気で生きる』、いい言葉だ」
杖を持って立ち上がった先生は、テーブルの伝票をサッととりあげて、二人分の会計を済ませてしまった。ほんとうは僕が支払わなければいけないのに、いつまで経っても僕は生徒なのだ。
イベント会場に戻り、時間の許す限り、イベントの説明をして、お別れをした。
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コメント
久しぶりにブログ拝読しました。じーん、としてしましました。会える時に会っておきたいですね。
投稿: 後輩 | 2023年5月14日 (日) 16時24分